これまでの乳がん研究では、細胞老化が腫瘍抑制と促進の両面で関与することが示唆されていたが、健康な乳腺組織における老化細胞の分布が将来の乳がん発症リスクに影響を与えるかどうかは不明だった。米インディアナ大学の研究チームはこのほど、健康な女性の乳腺組織切片画像から細胞老化を検出・解析する深層学習モデルを開発し、その結果、老化の種類によって乳がんの発症リスクが増減するこのを明らかにした。研究成果は、The Lancet Digital Healthからオンライン公開されている。
研究では、米インディアナ大学のKomen Tissue Bankに登録された4,382人の健康な女性の乳腺組織切片を対象に、細胞老化の空間的分布と乳がん発症リスクの関係を調査した。これらの画像から3,200万個以上の細胞核を解析し、異なる老化誘導因子(放射線照射、複製疲労、薬剤処理)に基づく3種類の老化モデル(IR、RS、AADモデル)を適用した。その結果、乳がん発症群と非発症群で細胞老化のパターンに有意な違いが認められ、特に脂肪組織における薬剤誘導型老化細胞(AADモデル)の割合が高い場合は乳がんリスクが低下し、逆に放射線誘導型老化細胞(IRモデル)が高い場合は乳がんリスクが上昇することが示された。また、従来の乳がんリスク評価指標であるGailスコアと組み合わせることで、より精度の高いリスク評価が可能であることが明らかになった。
研究者らは「老化細胞の種類ごとに乳がん発症リスクが異なる点を強調し、AIを活用した細胞老化の解析は非悪性乳腺生検の臨床的有用性を高める可能性がある」と述べている。将来的には、老化関連バイオマーカーの標準化や、他のがん種への応用も期待される。
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