網膜血管は肉眼で直接観察できる唯一の血管であり、「全身血管の窓」とも称される。網膜画像を用いて網膜症を検出するAIモデルはすでに広く臨床応用されているが、シンガポールの研究チームは網膜画像から全身性血管系障害を予測する可能性に注目した。網膜画像のAI分析を通じた「糖尿病に伴う全身性血管系障害の予測および検出」に関するシステマティックレビューを行い、その結果をeClinicalMedicineに発表した。
研究チームは、2000年から2024年の期間において、糖尿病による血管系障害の検出のためにAIを用いた網膜画像分析に関する文献について、PubMed、Web of Science、Google Scholarを検索し、38件の研究レビューを行った。テーマとしては、糖尿病予備群または健常者における糖尿病発症予測(n=4)、糖尿病患者の合併症発症予測(n=10)、眼底検査やOCT(光干渉断層計)を利用した網膜微小血管障害の検出(n=8)、心血管系障害のリスク予測(n=10)などが含まれた。網膜画像撮影のモダリティは、大半が眼底写真であり、6件ではOCTが使用されていた。AIモデルには、畳み込みニューラルネットワーク、ResNet、RETFoundなど、さまざまなモデルが採用された。AUCは0.676から0.971の範囲で、特に慢性腎疾患検出(AUC:0.911)、心血管疾患予測(AUC:0.971)、糖尿病末梢神経障害(AUC:0.867)などの分野で優れた結果が報告されていた。また、AIモデルの予測精度は、年齢、性別、血圧、HbA1cなどの複数要因を考慮することで大幅に改善されることが明らかとなっている。
今回のレビューでは、糖尿病性網膜症におけるAIスクリーニングが全身性血管障害の予測および検出において有望であることが示されている。研究者らは「特に低中所得国の眼科医療へのアクセスが限られる農村地域において、これは画期的なツールとなるだろう」と述べた。
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