医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例AIが既存薬から新たな脂質低下作用を発見

AIが既存薬から新たな脂質低下作用を発見

中国の研究チームが、人工知能(AI)を活用し、既にFDAの承認を受けている医薬品から想定していなかった脂質低下効果を発見した。本研究Acta Pharmacologica Sinica誌に掲載されており、スタチンなど標準治療に対する忍容性の低さや効果不十分に悩む高脂血症患者の「治療ギャップ」を埋める手がかりとなり得る。

研究チームは既知の脂質低下薬176種と非脂質低下薬3,254種、計3,430種の既知薬をデータ化し、68通りの機械学習モデルを競わせて性能を比較した。最上位10モデルの多数決で29薬を候補に絞り込んだ。その後、1998〜2024年の電子カルテによる後ろ向き解析で4薬(アルガトロバン、レボキシル(レボチロキシン)、オセルタミビル、チアミン)が実際にLDLと総コレステロールを有意に低下させることを確認した。さらにマウス実験、そして分子ドッキング解析という厳格な多層検証を経て裏付けられた。

「私たちはAI駆動型のドラッグリポジショニングという新しいパラダイムを確立した」と筆頭著者のPeng Luo氏は述べている。既存薬は安全性データと製造体制が整っているため、再定位が成功すれば即座に臨床試験へ進めるのが強みだ。AI創薬×リアルワールドデータという新しいパラダイムは、高脂血症のみならず糖尿病や認知症など複合疾患にも応用可能であり、「薬の地図」を塗り替える革新になるかもしれない。

参照論文:

Integration of machine learning and experimental validation reveals new lipid-lowering drug candidates

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1.片寄駿 旭川医科大学医学部卒(MD)、Columbia University研究員、Accenture, LPIXELにて機械学習エンジニア、医療AIスタートアップ経営など。
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