医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例AIによる治験プロセス革新の可能性

AIによる治験プロセス革新の可能性

近年、臨床試験の計画・運営においては、費用の増大や被験者募集の困難、対象集団の偏りといった構造的な課題が指摘されている。これらは新規治療の評価を遅らせるだけでなく、エビデンスの一般化可能性を損なうおそれがある。こうした課題を踏まえ、米国の研究チームは、臨床試験プロセスへのAIの応用により、治験参加者の適格基準や試験デザイン、運営プロセスの革新を目指す展望を発表した。

npj Digital Medicineに発表された論文において、筆者らは従来の適格基準が実臨床患者を過度に除外し、治験集団と現場患者との乖離を生じさせていると指摘した。その上で、電子カルテ(EHR)や過去の治験データを機械学習で解析し、不必要な除外基準を同定するアプローチを紹介した。実際に肺がんの治験データを用いた検証では、安全性を損なわずに適格患者数を平均で2倍に拡大できる可能性が示された。また、強化学習を用い、中間結果に応じて投与量や治療群の割り付けをリアルタイムで最適化する適応的デザインを紹介している。加えて、実際の患者データから仮想モデル(デジタルツイン)を作成し、シミュレーション上の対照群として活用することで、希少疾患など被験者が限られる場合でも効率的な解析を可能にした。これらにより、試験効率の改善と現実的な母集団を反映した治験設計が可能になる。

本研究の新規性は、AIを単なる分析手段としてではなく、臨床試験の設計および運営に変革をもたらす要素として位置づけた点にある。研究者らは「臨床試験にAIを応用するにあたっては、方法論的・規制的・倫理的課題を踏まえ、被験者数や対象疾患に応じて柔軟に適用可能な運用体制を整備することが今後の重要課題である」と述べている。

参照文献:

AI and innovation in clinical trials

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Kazuyo NAGASHIMA
Kazuyo NAGASHIMA
長島和世 群馬大学医学部卒(MD)、The University of Manchester(MPH)。WHO/EMROにて公衆衛生対策に従事。2025年度より、アラブ首長国連邦にて、プライマリーケア診療。
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