2026年6月より、日本のデジタル治療(DTx:Digital Therapeutics)市場に、新たに2つの製品が保険適用される。
・サスメド 不眠障害用アプリ Medcle|不眠障害用プログラム
・ENDEAVORRIDE(エンデバーライド)|注意欠如多動症治療補助プログラム
本記事では、この2製品に加えて、2025年より保険適用されているCureApp社のアルコール依存症治療補助プログラムと合わせて、治療用アプリの開発について学ぶべき点を整理する。
【5/21(木) 無料イベント】サスメド・塩野義のSaMD事例から考える保険戦略
① 概要
治療用アプリの保険適用に関して、以下の3製品について概要は以下のとおりである。
| 項目 | CureApp AUD 飲酒量低減治療補助アプリ | サスメド 不眠障害用アプリ Medcle | ENDEAVORRIDE(エンデバーライド) |
|---|---|---|---|
| 企業名 | 株式会社CureApp | サスメド株式会社 | 塩野義製薬株式会社 |
| 決定区分 | C2(新機能・新技術) | C2(新機能・新技術) | C2(新機能・新技術) |
| 保険償還価格 | 7,010円 | 24,100円 | 14,500円 |
| 使用期間(算定回数) | 初回から6か月を限度、月1回(最大6回) | 1回(9週間の治療プログラム) | 患者1人につき2回まで(2回目は初回から10週間以上の間隔) |
| 保険償還開始日 | 2025年9月1日 | 2026年6月1日(予定) | 2026年6月1日(予定) |
| 薬事承認日 | 2025年2月13日 | 2025年9月2日(一部変更承認、当初承認は2023年2月15日) | 2025年2月13日 |
治療あたりの実質コスト
3製品の償還価格は7,010円〜24,100円と幅があるが、使用期間と算定回数を加味した一連の治療あたりの総額で見る必要がある。
・CureApp AUD:7,010円 × 最大6回 = 最大42,060円
・サスメド Medcle:24,100円 × 1回 = 24,100円
・ENDEAVORRIDE:14,500円 × 最大2回 = 最大29,000円
CureApp AUDは保険償還価格が低くみえるが、6か月間にわたって月1回算定可能なため、潜在的には償還額が大きいと言える。
サスメドMedcleは治療プログラム全体を1回の算定でカバーすることができる。
ENDEAVORRIDEは患者1人につき2回まで(2回目は初回から10週間以上の間隔)算定することができる。
この差は、各製品が実施した臨床試験の成績の違いを反映していると考えられる。
保険償還開始日と薬事承認日の違い
薬事承認から保険償還開始までのタイムラグは、3製品で大きく異なる。
| 製品名 | 薬事承認 → 保険償還 | 期間 |
|---|---|---|
| CureApp AUD | 2025年2月13日 → 2025年9月1日 | 約6.5か月 |
| サスメド Medcle | 2025年9月2日(一変) → 2026年6月1日(予定)※2023年2月15日(当初承認) → 2026年6月1日(予定) | 約9か月(当初承認を起点とすると3年強) |
| ENDEAVORRIDE | 2025年2月13日 → 2026年6月1日(予定) | 約16か月 |
CureApp AUDとENDEAVORRIDEは同日(2025年2月13日)に薬事承認を取得しているにもかかわらず、保険償還開始は約9か月の差がある。
この差は、ENDEAVORRIDEの保険適用希望書の提出時期や、医療技術評価分科会での審議を要したことなど、審査プロセスの違いによるものと考えられる。
サスメドMedcleは2023年2月の当初承認(販売名:サスメド Med CBT-i)を取得し、その後の一部変更承認を経て2026年6月の保険収載となっており、薬事承認から保険適用まで約3年の時間を要している。
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② 製品概要
| 項目 | CureApp AUD | サスメド Medcle | ENDEAVORRIDE |
|---|---|---|---|
| 使用目的 | アルコール依存症患者の飲酒量低減治療補助 | 不眠障害の治療を支援する目的で使用される | 小児期における注意欠如多動症(ADHD)の治療補助対象:不注意・多動-衝動性が共にみられる状態像又は不注意が優勢にみられる状態像の患者 |
| 製品特徴 | 外来での心理社会的治療では行えない診療時間外の介入を、患者ごとに個別化して行うとともに、診療時間外の患者の情報を集約して診察時に医師や医療従事者に提示 | 本品による9週間の治療。7日間の睡眠衛生指導及び睡眠表の実施の後、8週間のCBT-Iを治療原理としたコンテンツ | 「二重課題の実行及び課題に対する動的な難易度調整」を主たる機能とするビデオゲーム型アプリケーション |
| 主要試験デザイン | RCT(本品群140例 vs 対照群143例) | RCT(シャムアプリ対照)+ゾルピデム酒石酸塩を治療内容に設定した臨床研究と比較検証 | RCT(本品使用群と、経過観察を継続した対照群) |
3製品の臨床成績の概要
CureApp AUD
・本品の有用性を検証した飲酒量低減が許容されるアルコール依存症患者283名を対象としたランダム化比較試験では、12週時点の4週間あたりの多量飲酒日数(HDD日数)について、本品群-12.2日、対照群-9.5日と、本品群で有意にベースラインから減少した。
・総アルコール摂取量がベースラインから70%以上低下した割合(TAC 70)も、12週及び24週の時点で改善することが示された。
サスメド Medcle
① シャムアプリとの比較で優越性
・治療開始8週間後におけるAISのベースラインからの変化量の平均値は、介入群-6.7で対照群が-3.3(p<0.001)、不眠障害でないと判断されるAIS<6の割合は介入群37.9%、対照群10.2%で、いずれも本品の優越性が示された(p<0.001)。
② ゾルピデム(睡眠薬)との比較研究
・治療終了時におけるAISのベースラインからの変化量の平均値は、本品群-6.7、ゾルピデム群-9.9と有意差を認めた(p=0.001)が、治療終了2週間後の治療終了時からの変化量は、本品群-0.8、ゾルピデム群+2.1と本品が有意に改善した(p=0.004)。
・治療終了2週間後に、医師によって薬物治療が必要と判断された患者は、本品群7.0%、ゾルピデム群26.3%であった(p=0.013)。
ENDEAVORRIDE
・治療開始6週間におけるADHD-RS-IV(医師評価)不注意スコアのベースラインからの調整平均変化量は、本品使用群 -4.44 ± 0.49、対照群 -1.47 ± 0.65、変化量の差は-2.97 [95%信頼区間 -4.38 to -1.56]と、有意な低減効果を認めた。
・1サイクル目終了後、4週間の観察期間をおいて、繰り返して再度6週間の治療を実施したところ、減少したスコアは維持された。
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③ 価格関連
| 項目 | CureApp AUD | サスメド Medcle | ENDEAVORRIDE |
|---|---|---|---|
| 保険償還価格 | 7,010円 | 24,100円 | 14,500円 |
| 算定方式・補正加算 | 類似機能区分:227 高血圧症治療補助アプリ | 原価計算方式有用性加算5%加算係数1.0 | 原価計算方式有用性加算5%加算係数1.0 |
| 推定適用患者数(ピーク時) | 217,620人(初年度) | 2,130,330人(初年度) | 303,969人(初年度) |
| 市場規模予測(ピーク時) | 5年度:9,819人/7.2億円 | 7年度:19,677人/5.0億円 | 5年度:73,288人/10.6億円 |
| 企業希望価格 | 7,330円(市場性加算(II)5%希望) | 49,458円(有用性加算15%希望) | 29,914円(有用性加算5%希望) |
| 企業希望市場規模 | 7.6億円 | 36.2億円(69,234人) | 24.6億円(84,434人) |
CureApp AUDは、希望価格7,330円に対して保険償還価格7,010円とほぼ希望どおりの水準で収載された。一方、サスメドMedcleとENDEAVORRIDEは、保険償還価格と企業希望価格との間に一定の乖離がみられる。
・サスメドMedcleは希望価格49,458円だったが、保険償還価格24,100円であった。
・ENDEAVORRIDEは希望価格29,914円だったが、保険償還価格14,500円であった。
市場規模予測の乖離については、サスメドMedcleでは企業予測(69,234人/36.2億円)と中医協予測(19,677人/5.0億円)の差が7倍超ある。これは後述する使用条件により、実際に使用対象となる患者が一部に絞られると評価されたためと考えられる。
④ 留意事項
比較表
| 項目 | CureApp AUD | サスメド Medcle | ENDEAVORRIDE |
|---|---|---|---|
| 施設要件 | アルコール依存症に係る適切な研修を修了した医師を配置している保険医療機関 | 不眠障害の認知行動療法又は本品の適正使用に係る適切な研修(6時間以上、修了証交付)を修了した医師を配置している保険医療機関 | 発達障害等に関する適切な研修又は児童思春期の患者に対する精神医療に係る適切な研修を修了した医師が1名以上配置/過去6か月間に初診を実施した20歳未満の発達障害の患者数が5名以上である保険医療機関 |
| 対象患者条件 | アルコール依存症の患者であって、断酒を選択すべき患者に該当しないもの。入院中の患者を除く | 薬物療法に適しない又は同意しない軽症から中等症の不眠障害の患者で、以下に該当しないもの:①睡眠障害治療薬服用中②精神疾患罹患③中等度以上の身体疾患罹患④不眠障害以外の睡眠・覚醒障害罹患⑤交代勤務・夜勤従事⑥医師が不適当と判断 | B001-4 小児特定疾患カウンセリング料のイ、又はI002 通院・在宅精神療法の1のロ・ハ、2のロ・ハを算定する患者であって、環境調整や心理社会的治療を実施しても期待する症状改善が見られないもの |
| 事前要件 | (特になし) | 7日間の睡眠表を含む睡眠衛生指導の実施後に使用 | 環境調整や心理社会的治療の実施 |
| 算定回数 | 初回の使用日の属する月から起算して6か月を限度、初回を含めて月1回 | 1回に限り算定 | 患者1人につき2回を限度として算定可。2回目は初回算定日から少なくとも10週間以上あけて算定 |
| 使用状況要件 | 前回算定日から、平均して7日間のうち3日以上飲酒記録がアプリに入力されている場合にのみ算定可 | (特になし) | (特になし) |
| その他 | 関連学会のガイドライン及び適正使用指針に従って使用 | 関連学会等のガイドライン及び適正使用指針/薬物療法に適しない又は同意しない理由を診療報酬明細書摘要欄に記載 | 関連学会のガイドライン及び適正使用指針 |
3製品はいずれも一定の留意事項が設定され、実臨床で算定するためにそれぞれのハードルが存在する。
CureApp AUD
他の2製品と比較すると、緩いハードルであることが推察される。対象患者は「断酒を選択すべき患者を除く」アルコール依存症患者と幅広く設定されている。
ただし特徴的な事項として、「平均して7日間のうち3日以上の飲酒記録入力がある場合にのみ算定可」という使用実績に基づく算定要件があり、患者の継続使用が算定の前提となっている点は他製品にない特徴である。
サスメドMedcle
適切な研修(6時間以上の研修期間)を修了した医師という要件がある。対象患者条件は一定の基準があり、薬物療法に適しない又は同意しない軽症から中等症の不眠障害の患者であり、さらに睡眠薬服用中・精神疾患・身体疾患・睡眠覚醒障害・交代勤務/夜勤・医師判断に該当しないことが条件となっている。さらに、算定前に7日間の睡眠表記入による睡眠衛生指導を実施する必要がある。
ENDEAVORRIDE
施設要件の「過去6か月間に初診を実施した20歳未満の発達障害の患者数が5名以上」により、当該製品を保険で使用できる医療機関は限定される。対象患者条件も「環境調整や心理社会的治療を実施しても期待する症状改善が見られない患者」であり、一定の治療を実施した患者が対象となる。さらに併算定要件として、B001-4小児特定疾患カウンセリング料またはI002通院・在宅精神療法の算定が必須である。
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おわりに
サスメドMedcle、ENDEAVORRIDEが保険適用されることになり、日本のデジタル治療市場における新たなマイルストーンとなる。一方で、価格・留意事項・市場規模予測のいずれも、企業の希望よりも保守的な水準に収まっている。
今後、対象疾患の拡大、エビデンスの蓄積、診療ガイドラインへの組み入れなどを通じて、これらの製品がどのように医療現場に定着していくかが注目される。それと同時に、治療用アプリ開発企業にとっては、価格や留意事項の予測精度を高め、現実的な事業計画を立てることが、今まで以上に重要な課題となるだろう。
参考資料
・中医協 総-3-4(令和6年1月26日)「プログラム医療機器に対する評価について(令和6年6月1日収載予定)」
・中医協 総-1(令和7年7月16日)「医療機器の保険適用について(令和7年9月1日収載予定)」
・中医協 総-3-1(令和8年5月13日)「医療機器の保険適用について(令和8年6月1日収載予定)」
・各社プレスリリース(薬事承認・販売開始関連)
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