結核の流行と薬剤耐性による大きな負担を抱えるインド共和国の事情について、以前にも紹介した(過去記事)。結核診断の遅れは周囲への感染拡大リスクを増大させる大きな課題である。ここでは、AIによる胸部X線画像診断で結核の早期診断に取り組むスタートアップQure.aiを紹介する。
インドでは、健診施設へのアクセスに10km以上歩くことが一般的にある。そして医師一人あたりが医療を提供する人口は11,082人との統計があり、一般に推奨される医師人口比の目安1:1000の10倍以上となる。この著明な医師不足は、結核の早期スクリーニングにも困難をもたらす。インド政府が解決策として参照したのは、かつて同様の流行状態を抱えた1950年代日本の取り組み – X線装置を載せた移動検診車によるスクリーニング – である。検診車の配備は進み、結核の流行地域に移動してのX線撮影が可能となった。そしてその次に現れた課題こそが、医師不足の状況で誰がそのX線画像を読影するかであった。
the better indiaの記事によると、Qure.aiが開発した胸部X線のAI診断システム「qXR」は、インドにおける診断プロセスの短期化を主眼に置く。Qure.aiはX線画像をクラウド上で診断するか、あるいはポケットサイズのデバイスでローカルに診断できるAI診断システムqXRを開発した。同社のアルゴリズムは、ローカルで動くハードウェアのスペック要件を50ドル程度で用意できるシングルボードコンピュータ「Raspberry Pi」に制限している。それにより1スキャンあたりのコストを1ドル未満に抑制することができたという。現地でAI画像診断を行うことで、これまでインドの医療事情から診断までに数週間を要していたスクリーニングを5分以内に短縮できた。
Qure.aiは「最小限のコストで結核を根絶する」目標を掲げている。同社のAIプロダクトは貧困を抱えるインド以外の国にも恩恵をもたらす可能性がある。また、既にかつての発展途上とは異なるが、日本の高コストな医療体質や医療過疎・地域差を考える上で、今一度原点に立ち返る参考にもなるのではないだろうか。