人が周辺環境を探索する際、連続した速い眼球運動で風景を読み込み、詳細な情報が必要な場面では一時的に目の動きを停止して特定の要素を確認する。それら目の動かし方と視線の固定という一連の行為は「viewing behaviour(視認行動)」としてまとめられる。パーキンソン病やアルツハイマー病などほぼ全ての認知障害・神経障害は、視認行動に影響を及ぼす。「目の動きと視線をMRIスキャンでアイトラッキングするツール」がノルウェー科学技術大学のシステム神経科学研究所(NTNU)で開発され、新たな診断手法の可能性を拓こうとしている。
NTNUのニュースリリースでは、nature neuroscience誌に報告された同ツール「DeepMReye」の研究成果を紹介している。DeepMReyeは長年に渡って集積されたMRIデータセットから構築されたAIモデルであり、被験者の視認行動に着目し、その共通パターンを認識することができる。MRIで眼球運動を解析することで、従来のカメラによるアイトラッキングでは対応不可能であった患者群、例えば目を閉じた睡眠中の状態、あるいは先天的に目が見えない人々などにも応用できる。
アイトラッキングという手法が認知機能障害や神経疾患を調べる重要な手段であることは、科学者・臨床医の間でも一定の合意を得ているが、実際的な普及には至ってない。DeepMReyeの研究チームのひとりMatthias Nau氏はその理由として「既存のカメラを用いたアイトラッキング手法は、非常に高価で、扱いが難しく、時間がかかりすぎる」としている。MRIという十分に普及した検査手法によってアイトラッキングする本研究のモデルには、追加のコストや特別なトレーニングを受けた人員を必要しないなど、多くのメリットが強調されている。誰もが簡単に使える「プラグアンドプレイ」を目指して、研究グループではツールをオープンソースとして利用可能にしており、使用する際の推奨事項やFAQを掲載したWEBサイトも公開しているため、参照いただきたい。
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