スウェーデンを本社とし現在は中国資本の傘下であるVOLVO社は、安全性が高い自動車メーカーとして日本でも伝統的に評価されている。インターネットでリアルタイムに情報をやりとりする自動車、いわゆるコネクテッドカーが世界的に流行しているなか、VOLVO社が次世代技術として取り入れたのは、イスラエルのスタートアップMDGoのものであった。同社は自動車事故が発生した際に、車内の人の怪我の度合いを予測するAIを開発している。
2019年7月23日、USA TODAYの記事によると、VOLVO社はMDGoへの出資を発表し、その外傷予測AIをさらに洗練させて市場に投入する予定とした。前月には現代自動車もMDGoへ出資を発表している。MDGoのAIは自動車が衝突した時に、加速度センサーからの情報で、頭・首・胸・内臓・骨盤にどのような怪我が起きるかを予測する。データはクラウドに送られ、救急隊が事故現場に到着する前に、応急処置の準備をしたり、患者が搬送される病院をあらかじめ選ぶ参考にもできるという。
コネクテッドカーが語られる際には、居場所や行動の追跡といったプライバシー問題が指摘される。MDGoの技術がユニークなのは、ドライバーや乗員の個人的な健康状態やバイタルサインを監視するようなセンサーに頼らないところである。加速度センサーは進歩が著しく、スマートフォンやウェアラブルデバイスに搭載され、ユーザーが走る・階段を上る様子といった、こちらの想像を超える高精度な分析を誰もが実感しているだろう。また加速度センサー自体は、自動車に既存のセンサーのひとつであるため、技術の導入障壁が低いこともメリットとなる。
MDGo共同創設者のひとり、医師のItay Bengadはバイクの愛好家である。バイク事故で意識不明となった友人を現場で見た時に感じた、自身の診断能力の不足をきっかけとして、事故後の2017年にスタートアップは立ち上げられた。交通安全に対する強い思いがMDGoの技術を支え、それに共感したVOLVO社はその安全神話をさらなる高みへと導くだろうか。