過剰な、または誤った警報によって医療者を疲労させ、危機意識を鈍麻させる「アラーム疲労」は臨床現場の切実な問題の1つである。これまで講じられてきたあらゆる対策を超えて、AIがその根本解決を担う可能性がある。
アラーム疲労の解決に向けた取り組みは、古典的な「manual tweaks」つまり手動での調整が主体となってきた。誤警報を直接減らすための感度調整や、医療者の精神的摩耗を回避するためのアラーム音量・音質調整が相当する。現に米Boston Medical Centerでは、警報をより緊急性の高いケースでのみ作動するように変更したところ、89%のアラーム削減と看護師のより素早い対応に結びついた、との研究報告もある。manual tweaksにおける別のアプローチとしては、そもそもアラームの閾値を患者ごとに個別化してしまう方法もある。手間はかかるものの期待される効果は高く、Johns Hopkins Hospitalの例では、6つの臨床部門で1日あたり24-74%のアラーム削減に成功している。
では、99%のアラームに臨床的意義が乏しいとされる現代の医療現場において、AIはどういった役割を果たすことができるだろうか。その際たるものは「1%の本物を見落とさない目」であり、肉体的・精神的に過度なストレスに晒され続ける医療者に寄り添い、患者の深刻な病状変化などを見過ごさない「セーフティネットとして機能するAIシステム」が強く求められている。患者第一の過度なアラーム感度設定は、医療者の「アラーム疲労」を引き起こし、望ましくない結果をもたらしてきた現実もある。AIの潜在的有効性に対する期待は大きく、関連研究・開発は徐々に進んでいる(過去記事)。