仮想現実(VR: Virtual Reality)の医学トレーニングへの適用が進んでいる(過去記事)。シミュレーションによる医学学習という概念自体は以前からあるものの、精巧なマネキンあるいは献体の必要があった。その学習法は高価かつ手順は複雑で、学習に参加できる人数も限定されてきた。英国では医療資源の不足をVR学習による教育リソース拡充でカバーする動きがある。
英メディア The Guardianでは、医学教育VRソフトウェア開発のOxford Medical Simulation(OMS)を紹介している。AIの専門家らによって設計されたVR環境で、医学生はヘッドセットを装着し、患者の病室に入るところからシナリオを開始、仮想空間には心電図モニターなどが設置され、視界を巡らせると聴診器や注射器に手を伸ばすことが出来る。一般開業医が行うような患者の病歴を調べる・体温を確認する・聴診器を背中に添わせて胸部を聴診する・のどを懐中電灯で照らすといった医学行為がシミュレート可能である。膨大なシナリオには敗血症・尿路感染・脳卒中・心不全・糖尿病などが網羅されている。OMS社によると、新型コロナウイルス感染症のパンデミックで医学生の臨床研修が休止されている状況から、安全に訓練できる同製品に対する需要は急増しているという。
OMS社はイギリス国民保健サービス NHSの医師であったJack Pottle氏らによって創業された。VRは医学生の学習曲線を短縮、あるいは外科医の手技を改善し、NHSが抱える医療資源の不足を補うことを期待されている。VRが従来のシミュレート教育より相対的に安価でアクセスしやすいのみならず、より効果的であるとの証明も進む。オックスフォード大学の2019年調査では、VRの教育効果は従来法と同等か上回るという報告が出されている。そのリアリティから倫理的にも医学生が患者に対する真の義務感を感じるようになったのではないか、と教育にあたる講師らは実感しているそうだ。