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ヘルスケアのあり方を変革する「デジタル治療」とその課題

デジタル治療は、ソフトウェアを用いた疾病予防や治療・管理を実現するもので、近年多くのスタートアップが参入し華々しい成果を示しつつある。ここでは、ヘルスケアのあり方を根本的に変革する「デジタル治療」の現在とその課題を紹介する。

デジタル治療がなぜ革新的でスケーラブルなのか、その答えは「従来の投薬に基づく治療を部分的に代替する可能性を持っているから」ということになる。近年のデータサイエンス分野の発展とビッグデータの台頭は、これまでにない治療アプローチが「いかに生体に対して強力に作用し得るか」を科学的エビデンスに基づいて示すことを可能とした。特に認知行動療法やバーチャルコーチングとの親和性が高く、例えばSleepioは薬物療法に頼らない不眠症治療として大きな注目を集めている。また、Akili Interactiveが開発した注意欠陥・多動性障害(ADHD)の治療を目的としたアクションゲームが先月、米食品医薬品局(FDA)の承認を取得したことも当該分野における重要なマイルストーンと言えるだろう(過去記事)。

ただしデジタル治療の今後にとって、その成長を左右する重要な課題が複数ある。まず1つ目は、治療法そのものへの信頼が低く、利用者が継続するモチベーションを保ちにくい点だ。患者行動は科学的エビデンスの頑健さとは別のところにあり、デジタル治療が内服と同程度のアドヒアランスを獲得するには、開発側の個別の努力とともに日常臨床への普及と現実的な時間経過が必要である可能性もある。

2つ目は、科学的に妥当性の担保されないサービス・プロダクトが乱立する危険性である。業界の成長途上において、臨床的有効性の明らかでない曖昧な立ち位置の同種ソフトウェアが多く現れた場合、無数の治療無効果例を生み出すことになり、デジタル治療そのものの発展阻害因子となる。取り扱いの枠組みを明確化し、医療の範疇で利用されるものには適切な臨床研究と継続した効果検証・副作用報告を求める必要がある。これらの取り組みは結果的に医療者にとっての信頼性向上にも資するもので、治療ワークフローへの統合が進むきっかけともなる。

昨年末にはアステラス製薬が米国のWelldoc社と戦略的パートナーシップを締結するなど、日本におけるデジタル治療も新たな局面を迎えようとしている(過去記事)。多くの優れた良心的な国産スタートアップにも、同領域への積極的な参入を期待したい。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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