レビュー論文 – 下垂体腫瘍へのAI利用

脳下垂体は大脳下部に存在し、生体における特定器官の働きを調整するホルモンを分泌する。この脳下垂体に発生した腫瘍の大半が腺腫(アデノーマ)であり、それ自体は良性腫瘍に分類される。下垂体腺腫には合併症としてホルモン分泌異常による種々の症状を引き起こすものがあり、手術による根治療法の対象ともなる。このような下垂体腫瘍の術中・術後における合併症予測において、AIの利用が急速に進んでいる。

バージニア大学の研究チームはこのほど、ピアレビューの医学ジャーナルであるWorld Neurosurgeryに「下垂体腫瘍へのAI利用」についてをまとめたレビュー論文を公開した。同論文によると、過去10年間で下垂体病変の診断を支援し、経蝶形骨洞下垂体手術における術中・術後の合併症を予測するための機械学習モデルの数は、文字通り指数関数的に増加しているという。関連データの規模拡大に伴い、当該アルゴリズム群は従前ゴールドスタンダードとされた予測ツールの精度を既に上回っており、患者ケアの質と患者アウトカムの改善の観点からは今後最も重要なアプローチとなることを指摘する。

下垂体手術領域における人工ニューラルネットワークは、視覚誘発電位や脳脊髄液漏出などの術中変化を予測するもので一定の成果を示している。また、本領域で同様に脚光をあびるのはRadiomicsで、これは医用画像データに関する画像特徴量の網羅解析によって臨床情報との関連を探索するというもの。画像の定量化により、腫瘍の特徴を非侵襲的に正確な評価を加えることで術前生検を完全に回避することが期待されている。急激なエビデンスの集積と実臨床応用が進む「脳外科分野におけるAI利用」からも目が離せない。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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