医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例医療系AIスタートアップ・ベンチャー企業の動向「AI x バイオ」で医療を変革 - ネクスジェン株式会社代表インタビュー

「AI x バイオ」で医療を変革 – ネクスジェン株式会社代表インタビュー

ネクスジェン株式会社は、組織幹細胞を用いた次世代再生医療イノベーションを目指す神戸発ベンチャーだ。バイオ領域の研究開発を効率化させる手段として、積極的にAI技術の取り込みと洗練を進め、現在はAIを主軸とした研究開発プロジェクトも多面的に推進している。

今回はネクスジェン株式会社の創設者で代表取締役を務める中島正和氏(以下、敬称略)に、組織としての取り組み・ビジョンなどについて伺った。

 

中島正和(ネクスジェン株式会社 Co-founder, 代表取締役, Chief Executive Officer)

京都大学工学部卒業後、伊藤忠商事株式会社に入社。アジアにおけるプロジェクト開発、事業投資等を担当。2000年より株式会社サイバーエージェントにて新規事業、経営戦略担当。その後、Schroder Ventures KK(MKSパートナーズ)にて、ベンチャー投資/育成、プライベートエクイティー投資を担当。2006年より、Macquarie Capitalのシニアバイスプレジデントとして、世界のインフラストラクチャー、ヘルスケア投資。これまで、医療・ヘルスケア分野を含むベンチャー起業、新規事業開発、VC投資等の幅広い経験を有する。ネクスジェン株式会社以外の役職(医療・ヘルスケア関連):株式会社Welby (東証:4438)(監査等委員・非常勤取締役・共同創業)、株式会社総医研ホールディングス(東証:2385)(社外取締役)

 

– では、まず御社の概要についてお教えください。

私どもはいわゆる「バイオベンチャー」ではなく、「バイオ」×「テクノロジー」の神戸発ベンチャーを自認しており、2016年に創業しました。現在の国内における拠点は神戸と東京となります。前者はバイオロジー(ウェット)の拠点で、神戸医療産業都市の中に所在しています。後者はテクノロジー、特にAI(ドライ)の研究拠点として機能しています。

弊社設立のきっかけは、私の中高大の同級生にあたるCSOの宮西が米国で得た研究成果に基づくものでした。彼はスタンフォード大学で研究活動を行っていましたが、血液の幹細胞について興味深い発見をした。彼から「これを着想として起業できないか」と相談を受けたことが始まりです。慎重に事業性を検討した結果、なかなか面白そうだということになり2016年の創業に至りました。

この際のシードは、造血幹細胞の中でも生涯に渡って自己複製能と多分化能を持つ「長期造血幹細胞」というものです。世界で初めてマウスにおいて同定しましたが、この発見を人に応用しようとするのが初期のモチベーションでした。ただし、我々もベンチャーとしての成り立ちから、種々のリソースには制限が伴います。こういった中で、研究開発プロセスを加速させ、効率的な知見導出と社会実装に結びつけるには、データ解析技術、特にAI周辺テクノロジーが必要だと考えるようになりました。結果的にこちらも主幹事業のひとつとして大きく成長しており、ウェットラボで展開するバイオ研究と、ドライラボで進めるAI開発が弊社の根幹を成しています。

 

– AIチームの活動についてお話頂けますか?

研究加速を見据えた種々のモジュールを金型的に作っていきました。画像認識やリコメンデーション、異常検知などをユースケースに応じて組み合わせ、提供価値に変えていくという取り組みが主体です。

コンセプトとしても「バイオロジーとデジタル技術の融合」で、バイオだけじゃない、AIだけじゃない事業の設計を見据えています。我々の主たる関心は当然医療にありますので、早期発見や早期診断、重症化予防といったところへの貢献ができればと思います。

注力領域としては、バイオ技術との親和性が高く、かつデジタル技術の適用余地が大きいところとなりますが、具体的には血液がん・移植、生殖・不妊、および感染症の各領域には現在特に大きくリソースを割いて取り組んでいます。

 

– 感染症にまつわるトピックとしては、東京都が提供する枠組み「先端医療機器アクセラレーションプロジェクト(AMDAP)」でのテーマ採択があったと伺っています。

感染症治療における菌種推定と抗菌薬選択の支援を可能とするAIの開発に向け、国立国際医療研究センター(NCGM)、および神戸大学との共同研究開発として取り組むプロジェクトです。グラム染色画像をもとに、AIによる形態評価で菌種推定と医師の抗菌薬選択をサポートすることを通し、抗菌薬の適正使用に貢献したいと考えています。

(編集部注:グラム染色は臨床的には19世紀から利用されている極めて一般的な細菌染色法で、細胞壁の構造の違いによって染め分けるもの。15分程度の処理によってある程度の菌種・菌属を簡便に見分けられるため重用されてきた。ただし検査者の技量が重要な要素となることもあり、設備・人員の不足する臨床現場では、グラム染色を含む特段の病原菌チェックを行わないまま広域抗菌薬の投与が行われているケースも少なくない。これは耐性菌問題に繋がる深刻な医療問題のひとつでもある。)

当面は泌尿器系感染症を念頭に置いた研究開発に努めていきます。役割分担としては、NCGMと神戸大学に臨床データおよび臨床的意義などの専門知見を提供頂き、弊社では実際の解析作業とシステム実装、事業化していく部分を担当します。特にAIアルゴリズムの妥当性検証には複数医療機関での検討が欠かせず、国内の先端医療機関群と共同して取り組めることを嬉しく思っています。目指すところは、スマートフォンを顕微鏡に取り付けることで、クイックかつ高精度に画像識別できるSaaSベースのAIソリューションです。これは医療リソースの乏しいエリアや夜間救急など、専門家が居合わせない場面での大きな助けとなります。また、各医療機関のアンチバイオグラムと連動することで、適切な抗菌薬の選定を支援できるよう進めていきます。

 

– 現時点での識別可能な菌種や精度についてはいかがですか?

現在は24種類の細菌を識別可能で、overallで90%前後の精度を達成しています。今後は、例えば日本では日常的に検出されることの少ない、比較的レアなものを含めて対象を拡大していきたいと考えています。

 

– サービスの海外展開も視野にありますか?

特にこのプロジェクトについては、新興国において果たす役割が大きい可能性があります。スマートフォンの普及は急速で、端末のカメラ性能も急激に向上していることを考えれば、現地で撮影、クラウド上または日本のデータセンターで解析、というサービス展開は実現可能な技術貢献だと思います。日本においてはもとより、アジア・アフリカへの展開を念頭に現地におけるパートナーシップも模索しています。欧州への進出が第一選択となることはないと思いますが、CEマーク認証の取得は、これら諸外国におけるサービス導入の敷居を下げるものでもあるので、今後はこういった許認可制度にも積極的にチャレンジしていきたいと考えています。

 

– 最後に、弊メディアでは医療AIに関心の強い読者を多く抱えていますが、メッセージなどありますでしょうか?

我々は業種・業態を問わず、国内にも種々のコラボレーターを募っています。我々の取り組みに何かしらのご関心があれば、お気軽にお声かけ頂ければ幸いです。また、高齢化の進展に伴い、悪性新生物は世界各国で多くの死者を出し、製薬業界をはじめヘルスケアマーケットのプレイヤーの多くは「がん」に目が向いています。今年こそ新型コロナウイルスの感染拡大があり、感染症への意識が急激に高まっていると言えますが、細菌感染症領域で言えば、2050年には薬剤耐性菌(AMR)による死者数が、がんによる死者数を上回るとの推計もあります(編集部注:英オニールレポートに基づく)。日本のAMRの現状は悲観的な面もあります。ぜひ、抗菌薬の適正使用を含む細菌感染症治療の現状と今後にも注目して頂きたいと考えています。

 

– 意義ある取り組みのご紹介をありがとうございました。御社における研究開発の順調な進展をお祈りしています。また進捗をお聞かせ頂くのを楽しみにしています。

TOKYO analytica
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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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