難聴がもたらす影響として、社会的な孤立やうつ病のリスクなどが指摘されてきた。米国の眼科・耳鼻科専門病院として著名なMassachusetts Eye and Earのグループは、「難聴データに対する機械学習モデルからうつ病発症を予測」するAI研究を行っている。
学術誌 The Hearing Journalに収載された同研究では、米国国立衛生統計センター(NCHS)が実施している公衆衛生調査プログラム NHANES: National Health and Nutrition Examination Surveyのデータを用いて機械学習モデルを構築し、主観および客観的な聴力データからうつ病スケールのスコアを正確に予測できるか検証した。その結果として、うつ病スケールが高得点となることへの最も影響力のある予測因子は、閾値や単語認識スコアのような客観的な聴力検査の変数ではなく、より機能的な次元の因子、すなわち難聴の社会的背景が上位を占めていた。
難聴が社会的孤立につながるという結果は、コミュニケーション能力の低下などを考えれば直感的に理解できる。一方で同研究の結果から著者らは「従来の補聴器を利用した難聴治療によって社会的孤立やうつの状態が改善できるという単純なものではない」と考察している。つまり、「単なる音の増幅で客観的な聴力検査データを改善しても、難聴による社会的問題の改善は容易ではない」という仮説を支持する結果であった。今回のAI研究によって「従来考えられていた以上に、難聴の社会的側面がうつ病の発症に影響している可能性を聴覚ケア専門家は認識すべき」と著者らは強調している。そのうえで、社会的ダイナミズムを最適化する聴覚リハビリテーション戦略の必要性を提起している。
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