医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例「転移リスクの高いがん細胞特性」を視覚化するAI研究

「転移リスクの高いがん細胞特性」を視覚化するAI研究

AIが識別する画像の微細な違いは、「ある特定の細胞の特徴」など、解釈困難な差であるためにその臨床利用も容易ではない。その課題克服のため、米テキサス大学サウスウェスタン医療センター(UTSW)の研究グループは、皮膚がんであるメラノーマにおいて「転移する可能性の高い細胞と低い細胞で視覚的に何が異なるか」をAI手法で明らかにする研究を行っている。

UTSWのニュースリリースによると、同研究は7人のメラノーマ患者の腫瘍サンプルから約12,000個の生きた細胞の動画を撮影し、約170万枚の画像を生成した。AIアルゴリズムによって画像から56種の数値特徴を引き出し、そこから転移性の高い細胞と低い細胞を識別するものを1つ特定した。この数値を操作することにより、転移リスクの高い細胞特性を誇張した人工的な画像を逆に生成した。その結果、細胞の突起物である仮足のわずかな延長および散乱光の増加が、転移性細胞の視覚的な特徴であることを示すことができた。研究成果はCell Systems誌に掲載されている。

研究の有用性を証明するため、研究グループは凍結保存していたヒトメラノーマ細胞を、研究成果に従って転移性を分類しマウスに移植した。その結果、転移性が高いと予測されていた細胞は容易に浸潤する腫瘍を形成し、一方で転移性が低いと予測される細胞は、ほとんどあるいはまったく浸潤しなかった。研究メンバーのDanuser博士は「がんやその他の疾患の重要な特徴をAIで識別することが可能になるかもしれない」と語り、研究発展に期待を寄せる。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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