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BRAVEで見つけた「起業を腹決めするために本当に必要だったこと」

株式会社カルディオインテリジェンスは、心電図のAI自動解析システムを手掛ける医療AIスタートアップで、Beyond Next Venturesが主催するアクセラレーションプログラム「BRAVE」の卒業生でもある。

今回はカルディオインテリジェンス社CEOの田村雄一氏、Beyond Next Ventures社でBRAVEを主導する金丸将宏氏の対談の様子をお届けする(以下、敬称略)。

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田村 雄一 Yuichi TAMURA

株式会社カルディオインテリジェンスCEO・医師。慶應義塾大学医学部卒。
心臓専門医としての目線から、臨床現場に本当に必要なAI医療機器を開発し社会実装するため、2019年に株式会社カルディオインテリジェンスを創業。

 

金丸 将宏 Masahiro KANAMARU

2006年株式会社東芝 (R&Dセンターに配属)に入社。次世代光ディスクの研究開発に従事。その後、セミコンダクター&ストレージ社に異動。クラウドサーバー向けHDDの企画・開発・製造をリード。2015年 DBJキャピタル株式会社に入社。テクノロジー系ベンチャー企業への投資・ 支援活動に従事。2016年3月にBeyond Next Ventures株式会社に参画。メディカル、エレクトロニクス領域を中心に投資活動に従事。東北大学大学院理学研究科卒修士、グロービス経営大学院MBA。

 

 

金丸早速ですが、現在取り組まれている事業やプロダクトを、ご自身で始められたきっかけをお伺いさせてください。2019年に参加頂いたBRAVEの前になりますよね?

編集部注:BRAVEは2016年に開始した国内最大級のディープテック特化型アクセラレーションプログラムであり、起業前/ 創業直後の技術系スタートアップの支援を行っている。約2ヶ月間に渡り、技術系スタートアップの成長のカギを握る経営チームの強化、専門家からのメンタリング、事業計画の作成支援、起業家・事業会社とのネットワーク等を提供し、短期間で資金調達可能なチームへの成長を促す。これまで102チームが卒業し、BRAVE卒業後の累計資金調達額は130億円を超えている

田村:基礎的な研究を始めたのは2016年です。もう5年前です。金丸さんも昔会いに行かれた立命館大学の谷口忠大先生と私で、スタートしました。「実際にこのプロダクト開発をやった方が良い」と私自身が思ったきっかけとしては、私が臨床現場で難病を扱う中で、専門医の診療が届かない領域がフィールドとして非常に大きいと感じていた点です。治療に関してももちろんそうですが、様々な診断機会に関しても行き届かないところが、日本だけでなく発展途上国を中心として世界的にも多い。一番基礎的な検査である心電図や酸素飽度ですらそうです。その中で心電図や指先で酸素の取り込みをみる酸素飽和度のモニタリングがありますが、京都の会社さんと組んで最初に遠隔診療システムを立ち上げたのが2015年です。遠隔診療を介して自身の診療領域の患者さんのサポートを行う中で、その外にある大きな医療ニーズの中で医療従事者のサポートを行い、医療を受けられない患者さんをできるだけ減らす、そのような社会を実現するためには、自動化とAIというのが一番必要と感じるようになりました。

谷口先生と最初にミーティングした際、データを投入して機械学習にかけて自動化するようなことは技術的に難しくないだろうと。しかしそれでだけでは、AIの意義はそこまで大きくない。さらに進んだ形で、AIを使うことで当日には現れていない病気の微細な兆候を見つけてあげるようなことができると、本当の意味でAIを使う意味がある。「未病診断」と僕らは呼んでいますが、すなわち医師が従来発見できなかったことをAIで見つけてあげることができれば、そこには素晴らしい価値があるなという結論が出ました。医療現場が少し楽になるだけではなく、「今までの医療機器では発見できなかった患者さんを早期診断し、治療の機会を与える」ということをやってみようというのが研究開発のスタートでした。

そこから、基盤となるデータ集めやAIのあらゆる条件設定なども含めて行いましたが、その時に谷口先生の紹介で高田智広さん(現(株)カルディオインテリジェンスCTO)と知り合いました。当初想定していた技術も試行錯誤を重ねる中、1年半ぐらいで私たちが思い描いていた形でAIアルゴリズムができあがったので、これは是非社会実装していかなければいけないと強く感じ出しました。

社会実装の方法にも色々あって、例えば心電計のメーカーさんにライセンス供与したり、共同開発したりなどが一般的な形です。しかし自分たちが思い描いた診断・治療の世界観を実現・普及させ、社会を変えていくためには、自ら起業して社会実装を進めていくという手段もアリだなと考え始めていた折、ちょうどBRAVEに出会いました。

金丸今のお話を聞くとストーリーとして筋が通っていると感じましたが、実際にご自身でやろうかなっていうところが、一般的なドクターの思考回路とはギャップがあるのかもしれません。その点は違和感なく、例えば元々何かご自身で開発するというご計画、またはお考えがあったんでしょうか?

田村:そうですね。社会変革を起こす仕組みづくりは、初めに「えいや」と思い切ってやってみないとなかなかできないものです。既存のメーカーさんに委託すると、理想の形での社会実装が目指せないのではないかという課題感も抱いていましたし、やはり自分たちの手で成し遂げたいと感じていました。もちろん様々な医療機器メーカーさんや製薬企業さんなどと共同研究や共同開発などをやってきた経験から、連携することで助かった点は多くありました。一方、自分たちのアイデアをしっかり盛り込めることもあれば、企業さまの事情で方向修正を図らざるを得ない経験もありました。既存のメーカーさんの事情と、医療現場の未来をどう変えていくかという視点が必ずしも一致しない事も出てきます。その中でエッジの効いたものを新しく開発していくには、自分たちで起業するという選択肢もあってもいいのではと思いましたが、起業に必要な知識のすべてを全く知らないというのが私自身の課題でした。「技術はできたけど、じゃあどうしよう」と立ち止まり、数か月考えていたのがBRAVE参加前でした。

金丸まさにそこにBRAVEがはまったのかな、と思いました。

田村:そういう振りなんです今の(笑)。

金丸ありがとうございます(笑)。実際、BRAVEを運営している私から言いにくいところはありますが、「教えてもらえそう」とか「何か勉強になりそう」とかBRAVEに期待されている点はいろいろある一方、「BRAVEに参加しなくてもここは自分たちで何とかなる」などもあったと思います。実際に「ここはちょっと何をしたら良いかよく分からない」というポイントは具体的にどういうところでしたか?

田村:そうですね。一点は資金調達も含めたビジネス面ですね。そもそもスタートアップ企業自体がどのように動いているのかが全体像として分からなかった。本を読んだり、実際に事業をやってらっしゃる方の話を聞いたりすることはできます。でも、具体的にどういう手順をどういう順番でやらなければいけないかが分からなかったです。例えば資金調達であれば、銀行から借金するべきなのか、それともVCさんや事業会社さんから資金調達をするべきなのか、などです。事業性は事業計画がないと分からないじゃないですか。要するに短期で売上が立ちそうなら、借金してやってしまえばリスクも少ないし早い。一方で、プロダクト開発費用など製造販売前後に必要な資金を厚みを持った形で数値化してタイムラインを引くみたいなことは、医療者としての経験だけでは厳しいものがありました。そういった意味での具体化とか精緻化が全然できていないことが大きな課題でした。

金丸事業計画の作り方とか、バリュエーションの方法などを解説されている本はありますが、確かに僕もこの仕事をする前は具体的・実務的な部分の想像がつかなかったです。

田村:自分の持っているものがどういうスピードで開発が進んで、市場へ展開でき、売上が立つのか。もちろん数字遊びのようにできることもありますが、実際に積み上げていく上では「出資者側はどのように事業を見ているか」ということをきちんと考える必要があります。自分たちのプロダクト、自分たちの事業に落とし込んだ時にどのように組み立てていくかという課題を解決するために、「アクセラレーションプログラム」というものが世の中にあるということを知りました。

 

 

金丸話は少し変わりますが、BRAVEで学んでみて、「できそうだったら起業しようかな」という心構えだったのか、あるいは「いや、難しくても起業するんだ」という腹決めのようなものにまでなったんでしょうか?

田村:個人では難しい、またCTOがいたとしても開発者だけでは難しい、というのは感じていました。BRAVEに参加する前は、どのような人材が必要なのかすらよく分かっていなかったので、自分たちで勉強すれば何とかなるのでは、という気もしました。ですが、実際BRAVEに参加して「やはり自分たちの力だけでは何ともならない」と痛感し、一緒に起業してビジネス面を支えてくれる仲間を見つけないといけないと痛感しました。BRAVEに参加してはじめて「本当の創業に至るまでの課題」というのは何も解決していない状態であることを明らかにできました。課題がより具体化した中で、じゃあ起業の腹決めをするには仲間が必要だと感じたわけです。

金丸BRAVEではILPという仕組みによって、創業メンバー候補の方と一緒に事業計画をブラッシュアップしていただきます。田村さんとしては「どういう人が仲間として良いか」というのは、変わってきた、または固まりましたか?

編集部注:スタートアップ経営に関心があるビジネスパーソンを募集し(ILP)、2ヶ月のプログラム期間中に参加チームとのマッチングを行い、ワンチームとしてピッチ大会に向けた事業計画のブラッシュアップなどを行う。これまでに300名のILP人材が、BRAVE参加チームとのマッチングを実現。BRAVE終了後、実際にマッチング先のチームの創業メンバーとしてジョインしたり、スタートアップへ経営陣として参画したケースも多数ある)

https://talent.beyondnextventures.com/ilp 

田村:自分たちのプロダクトの意義を理解してくれる、社会的意義に共感してくれるというのがまず前提条件です。当然リスクの高い転職になるので、会社の取り組みと可能性を一緒に信じてくれる必要もあります。また、「自分たちが持っていない要素を持っている方」という点も大事だと思います。具体的には、実際に薬剤や医療機器に取り組んだことがあるとか、医療現場でマーケティングをしたことがあるとか、実際にその戦略を立てたことがあるといった経験は貴重ですし、医療現場での経験がないとしても、実際に責任ある立場でマネージメントの経験がある方が理想的ですよね。

金丸実は今年もBRAVEを開催しており、本年は春と秋とで2回開催です。春は11チーム採択させていただきましたが、まさに事業計画をブラッシュアップしているところです(2021年7月の取材時点)。秋はこれからです。ILPの方々も募集をかけて、結果たくさんの方に集まってきてもらっているところですが、現在の田村さんとしては、0→1に関わっていただくメンバーとして重要な要素はありますか?

田村:やはり「何らかの事業を自分で責任をもって完遂した経験があるかどうか」ですね。そこはすごく大事です。責任者でなくともよいですが、ある領域に関してスタートからゴールまで設定したものを完遂したことがあるという経験があれば、どの業界でもその経験は適用可能だと思います。言われるがままにやってみたらできた、のような成功体験があることもビジネスパーソンの育成では大事ですが、成功した裏で何が動いていたかを真には理解していない可能性がある。僕らも多くの方と一緒に仕事させてもらっていますが、やはり一貫した完遂経験のある人は強いと感じます。

金丸リーダーシップの経験があると口で仰る方はいますが、実際のところは0→1で差がでますよね。

田村:そうなんですよね。例えば大きな会社の一つの事業部で既に実績が出ているところを引き継いでやるケースだと、0→1の局面で力を発揮できない可能性もあるとは思います。

金丸シリコンバレーのように、起業の経験が比較的得やすい環境であれば別ですが、今の日本のようなそのような経験をする機会がない中で、たった2ヶ月のBRAVEの期間だけでも、事業の0→1をリーダーシップを持ってなんとか経験してほしいなと思い、ILPというプログラムを導入しています。

田村:ILPの皆さんにとっても素晴らしい経験値になると思います。実際に創業から事業化までをシミュレーションする中で、面白いと感じて飛び込んでみたいとなった時に、自分が売りにできるポイントがどこにあるのか。会社での肩書やポジションを外した時、何が残るのかを自分で見つめ直す機会は、会社の中だけではそうそう得られないかもしれません。その意味でもILPはすごく良いプログラムなんじゃないかなと思います。

金丸ありがとうございます。話は変わりますが、田村さんは起業して丸2年でしょうか?

田村:この10月で2年ですね。

金丸起業すると決意してからは5 年という時間が経ちましたが、事業を構想していた当時の田村さんご自身、あるいは、これから今BRAVEに参加しようとしているチームに向けたメッセージはございますか?

田村:事業化はそんなに簡単じゃないということ、そして、仮にいいシーズを持っていたとしても、それを受け入れる市場や、その魅力を伝えるような手段が無ければ浸透はしないということです。シーズが技術的に優れているとか、社会を変え得るといったことは最低条件ですが、それだけでは市場では勝てないという点は、僕らが直面している課題です。マーケティングにしても販売戦略にしても市場戦略にしても、これらをどのように組み立てていくかを一緒に考えてくれる人が必ず必要だということは伝えたいです。

金丸BRAVEで事業プランのブラッシュアップをする中で、良い戦略が作れない、「海外から参入者が来たらどうするか」など、過剰にリスクを考えるようになることがよくあります。完璧な事業プランが浮かばない、または考えすぎてしまい「事業への熱」のようなものがシュンとなくなるケースが、若い人に多いんです。事業そのものや事業プランに迷っている人が仮にいたとして、いろいろ考えないといけない中で、まだ0の段階の人向けに、お伝えしたい「必要条件」のようなものはありますか?

田村:起業では事前に予想したリスクよりも、予想できないことのほうが遥かに多いと思います。だからこそ事前に予測できないが起きた時に「やり抜くことができるかどうか」がすごく大事かなと。逆に言うと、やり抜く仲間と気力があれば、事業がピボットするにしても、起業自体は決してひどいことにはならないと思います。まずは自分たちが持っているプロダクトを信じる一方で、社会実装していく上では必ず困難があるということを理解しておく必要があります。

また自分たちでは全くコントロールできない困難というのがあります。僕らも創業して「資金調達をしようか」という時にコロナがきました。コロナが拡がり始めた瞬間は社会全体がシュリンクしました。事業者さんからの投資が冷え込む可能性を懸念して、VCさんも「既存の投資先を生き残らせるためにどうするか」というところがメインになってしまった。ちょうど創業してお金を集めようとしたタイミングに、これがぶつかってしまったわけです。このように自分たちがコントロールできない、事前に予測していない困難は何らかの形で必ず起きてくると思います。そういった時にも自分たちのプロダクトを信じてやり抜けるかどうかがすごく大事ですね。ですから、「いろんなことが起きるとストレスだな」と思う人は、正直やめておいた方が良いと思います。

金丸田村さんは臨床現場におり、ここにペインがあるよっていうのを田村さんご自身がよくわかっていたので、プロダクトの可能性を信じられたのはかなり大きかったでしょうか。

田村:開発しているプロダクトが今現在、現場にないわけですからね。

金丸医療系のスタートアップの中で、若いドクターの方が創業されるケースが多いです。弊社の投資先でいえばアイリスの沖山さんや、CureAppの佐竹さん。臨床のご経験がある方が事業をやるというのは、医療現場のペインを外さないという点がすごく大きいなと思っています。田村さんはドクターの方が起業されるのをどう思いますか?

田村:万人に勧めるというのは語弊がありますが、でも臨床現場のペイン、特に専門医や広く現場を見ている医師や医療従事者にとってペインというのは、確実に現場に存在するもので、それはものすごい強みになります。それを自分の力で解決したい方には是非やってもらえればと思います。

金丸外から見ると医療現場は想像でしかないですし、経験できないものです。そのような中で、現場の声が分かって、開発力もあるチームは強いなと思います。

BRAVEの話に戻りますが、実際に参加されてみて、BRAVEには、さらにこういうのがあった方がもっと良いんじゃないかというのありますか?

田村:BRAVEはアクセラレーションプログラムとして非常に完成されていると思います。ILPの方がBRAVEを終えられた後「実際に飛び込むケース」があった時にどのようにサポートするのかは大事なポイントかなと思います。ILPにとっての出口戦略みたいなものが、より現実的なサポートとしてあるともっと良いかなと思います。そうすれば、BRAVE参加での創業体験から実際の事業化プロジェクトに参加するまでが一体化するはずです。ILPの方の中でも「一歩踏み出せない」時に、サポートする事後プログラムのようなものがあれば、スタートアップに飛び込む人も増えていくかなと思います。また実際に起業家になるためには、その事業を知るだけではなく、「あなたに何が必要か」を教えてくれるとか、振り返ることができるようなプログラムがあれば、さらにマッチングがうまく機能するかもしれません。

金丸貴重なご意見です、ぜひ参考にさせていただきます。本日は貴重なお時間を頂き、誠にありがとうございました。田村さんの益々のご活躍も期待しております。

田村:こちらこそありがとうございました。

 

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ディープテック特化型アクセラレーションプログラム・BRAVE

TOKYO analytica
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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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