医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例最新医療AI研究がん治療を変革する「ネオアンチゲンの免疫反応予測AI」

がん治療を変革する「ネオアンチゲンの免疫反応予測AI」

ネオアンチゲン(Neoantigen)というがん細胞表面に産生されるペプチドは、抗原として免疫応答を起こす。T細胞がそのネオアンチゲンを認識できるとがん細胞を攻撃できるが、ネオアンチゲンを認識できないとがんの成長を許してしまう。T細胞に認識されるネオアンチゲンを特定できれば、免疫チェックポイント阻害薬などに代表される「がん免疫療法」の開発や治療反応の予測に役立つ。しかし、何万種類ものネオアンチゲンから、T細胞が反応を起こすものを予測することは、時間・技術・コストの観点から容易ではなかった。

米UT Southwestern Medical Centerでは「AI手法によってどのネオアンチゲンがT細胞に認識されるか特定する研究」を行っており、その成果が学術誌 Nature Machine Intelligenceに発表された。pMTnetと名付けられた深層学習ベースのアルゴリズムは、ネオアンチゲン・主要組織適合遺伝子複合体(MHC)・T細胞という3つの構成要素が結合するかしないかの組み合わせデータを学習し、免疫反応を予測することができる。どのような患者が免疫チェックポイント阻害薬への治療反応が良く、全生存率が高いかも予測できる。なお、pMTnetはGitHub上で公開されている。

研究グループは「ネオアンチゲンとT細胞受容体の結合を予測することはこれまで非常に困難とされていたが、我々は機械学習によって前進している。この知識はがんと闘うために利用できるかもしれない」とする。がん免疫療法が直面している大きな課題を解決できるか、pMTnet研究の進展が期待される。

関連記事:

  1. 肺がん免疫療法への治療反応性を予測するAIモデル
  2. がん免疫療法の弊害を受ける患者をAIで予見できるか?
  3. 進行性メラノーマに対する免疫療法での治療反応を予測するAI研究
  4. AIによる免疫系マッピング – スタートアップ Immunaiが2000万ドルの資金調達
TOKYO analytica
TOKYO analyticahttps://tokyoanalytica.com/
TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
RELATED ARTICLES

最新記事

注目の記事