小児遺伝性疾患の診断に貢献するAI

世界では毎年約700万人の新生児が深刻な遺伝性疾患を抱えて生まれてくる。基本的な遺伝子配列の解析に数時間、そこから特定の疾患診断のための手動分析に数日から数週間かかるケースもある。生後24-48時間以内の診断が転帰改善に重要な役割を果たすとの報告もあり、新生児特定集中治療室(NICU)に収容される子どもの一部にとっては、従来の「診断までのタイムラグ」さえも惜しまれる。

米ユタ大学病院からのリリースでは、AI活用の技術で小児遺伝性疾患を迅速に特定する研究成果が紹介されている。Genomic Medicine誌に報告された本研究では、米Fabric Genomics社のAIアルゴリズムを検証し、疾患の原因となる遺伝子エラーの上位2種類のいずれかを92%の精度で特定できるという結果を得た。この成果は、同タスクを60%以下の精度で行っていた既存ツールに対する優位性を示している。

FabricのAIは、多様な集団からのゲノム配列に関する大規模なデータベース、臨床疾患情報、およびその他の医療および科学データのリポジトリを相互参照し、これらすべてを個々の患者ゲノム配列・医療記録と組み合わせることで成立する。医療記録の検索を支援するため、自然言語処理ツールであるClinithinkのツールと組み合わせている。重症新生児には急速に多くの臨床ノートが蓄積するが、診断プロセスの一環として、医師がメモ内容を手動で確認して要約する必要があるため、多大な時間の浪費がみられてきた。これらメモの内容を数秒で自動変換し、当該AIで利用可能な形式とするClinithinkツールの機能は、速度とスケーラビリティにとって重要な意味を持つ。

ユタ大学病院の小児科教授であるLuca Brunelli氏は「研究の目標は、ツールが開発される以前に不安を抱えながら生活していた家族に答えを提供することだ。子どもの病気の理由を説明できるようになり、病気の管理を改善することが、回復につながることもある」と述べている。本研究により、NICUにおける「AIと全ゲノムシーケンスの幅広い活用への道」を拓いていくことが期待されている。

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The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。

1. 岡本 将輝
信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、ロンドン大学ユニバーシティカレッジ(University College London)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員を経て、SBI大学院大学客員准教授、東京大学特任研究員など。専門はメディカルデータサイエンス。

2. 杉野 智啓
防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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