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臓器の3Dプリントを実現する「マイクロ流体バイオプリンティング」

臓器移植は重篤な疾病における最後の希望であるが、ドナーの数は限られており、米国単独でも現在11万人以上が何らかの臓器移植における待機者となっている。臓器の3Dプリントは事態の速やかな改善を達成し得る一方、技術的障壁は大きい。米スティーブンス工科大学の研究チームは、あらゆる臓器・組織を3Dプリント可能とするための、基礎技術研究を進めている。

このほどScientific Reportsから公開されたチームの研究論文によると、バイオインク(培養細胞を含んだハイドロゲル)を使って臓器をプリントする際の主要な課題は、「プリントされたマイクロファイバーの形状や大きさを、既存の3Dプリンターでは実現不可能なほど細かく制御する必要がある点」だとしている。研究チームは、マイクロ流体工学の技術を用い、これまでよりはるかに微細なスケールで操作できる「新しい3Dプリントプロセス」を開発することで、これを乗り越えようとする。既存の3Dプリンターでは、ノズルからバイオインクを噴射して約200ミクロン(0.2mm)の構造体を作ることができる。一方、チームが考案したマイクロ流体バイオプリンティングに基づくプリンターでは、数十μm(0.01mmレベル)の生物構造をプリントすることができ、これは単一細胞のスケールと同等となる。

3Dプリントされた「足場」上で組織を増殖させ、膀胱などの比較的シンプルな臓器を作ることは既に行われているが、肝臓や腎臓など、より複雑な臓器で実現するには、多くの異なる種類の細胞を正確に組み合わせる必要がある。今後、マイクロ流体バイオプリンティングで作成した微細構造の制御性をさらに高めていくことが求められており、「ドナー不要の臓器移植」実現に向け、研究者らは日夜奮闘している。

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