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心筋梗塞における「女性の過小治療」を改善するリスクモデル

29日、権威ある学術誌「The Lancet」に公開された研究では、現在の心筋梗塞患におけるケア指針となる確立されたリスクモデルが、女性では精度が低く、女性患者の過小治療を助長することを示した上で、ベースライン時のリスクプロファイルの性差を考慮し、リスク予測を改善したAIベースの新しいリスクスコアを開発した。

スイス・チューリッヒ大学の研究チームは、欧州最大の心筋梗塞患者データベースを用い、42万人を超える患者データからこの新しいリスクスコアを導出した。チームは「心筋梗塞に伴う一般的な初期症状が男女間で異なること」を指摘し、これが治療上のギャップを生んできた可能性にも言及する。つまり、左肩から左腕にかけての放散痛を伴う胸痛を自覚する男性とは異なり、女性の虚血性心疾患症状は背部に放散する腹痛や吐き気、嘔吐を頻回に認める。このような「疾患による表現型の違い」が、入院時のリスク因子プロファイルの違いに起因する可能性も明らかにしている。

著者らは「年齢や併存疾患の負担が、女性でさらに重くなることを考慮したリスクスコアの必要性」を訴え、実際にこれらを統計的に考慮した新しいリスクスコアを提唱している。機械学習アルゴリズムによる大規模データセットからの学習は、患者の個別化予後予測を高精度化した面もあり、本研究成果は個別化医療を巡る科学的エビデンスへの大きな貢献ともなっている。

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