顔貌には「疾患診断に有用な情報」が多く含まれている。しかし、顔データを研究活用などの二次利用目的にデジタル化、またはデータベース化する際、個人情報として非識別化しつつ、診断に重要な特徴のみを保持することは容易ではなかった。
英・ケンブリッジ大学と中国・中山大学の共同研究チームは、3D再構成技術と深層学習アルゴリズムによって、顔画像の疾患関連情報を保ちながら、個人識別可能な特徴を消去する「デジタルマスク」を開発した。同研究の成果はNature Medicineに発表されている。デジタルマスクは、深層学習アルゴリズムで顔のパーツごとの特徴を抽出し、その特徴から顔・眼瞼・眼球などの形や動きを三次元的に再構成したものとなる。個人を識別可能な情報のほとんどは保持されておらず、また、元の画像に変換することは極めて難しい。一方、「デジタルマスクからの診断は、元の顔画像からの診断と一致すること」が示され、臨床的な有用性が示唆されている。さらに、従来型の非識別化手法である「顔画像のトリミング」と比較しても、デジタルマスクは個人識別されるリスクが有意に低く、AIによる顔認識も回避できることが確認された。
研究内で、デジタルマスク技術に対する患者意識を調査したところ、80%以上の患者が「プライバシーへの懸念が軽減される」と回答しており、デジタルマスク導入によって個人情報の共有に積極的となる事実も明らかにされている。論文の著者でケンブリッジ大学のPatrick Yu-Wai-Man教授は「デジタルマスクはプライバシーを保護しつつ、臨床医に有用な情報を提供する実用的な方法だ。従来、利用できる手法には粗雑なものしかなかったが、我々が提案するデジタルマスクは遥かに洗練された顔画像の匿名化ツールで、遠隔医療の普及にとっても必要な『プライバシー問題克服』への重要な一歩となる」と語った。
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