アルツハイマー病の初期スクリーニングとして、網膜検査が注目されている。網膜はヒトの発生過程で脳の一部から枝分かれした組織であり、神経細胞が何層にも折り重なっている。そのため、脳の神経学的変化が網膜にも現れることを示した研究成果が蓄積し、「非侵襲的で低コストなアルツハイマー病検査としての網膜検査」がAI手法によって実現されようとしている。
カナダのRetiSpec社は、光を非常に細かく分光することで、人間の目では評価困難な物性の違いや、見ることのできない現象を可視化する「ハイパースペクトルイメージング技術」と、網膜内のアミロイド凝集体を特定する機械学習アルゴリズムを組み合わせ、アルツハイマー病あるいは軽度認知障害のリスクを網膜画像から特定する臨床試験を行っている。組織へのアミロイド沈着はアルツハイマー病との関係が示されており(*編集部注:ただし、アミロイドβ仮説はその重要根拠論文で捏造疑惑が今夏指摘され、現在も論争を呼んでいる)、従来は脳組織から同定したアミロイド沈着を網膜検査から特定しようと試みる。この試験の予備調査では、網膜画像検査から脳アミロイド沈着を有する患者を感度86%・特異度80%で識別することができたとする。
現在、北米の複数施設でこの技術の有効性検証が進んでいる。本試験を主導するToronto Memory ProgramのSharon Cohen氏は「この検査が診断ツールとして展開されるにはさらに多くのデータが必要だが、その日は必ず来るだろう。網膜へのアミロイド沈着という十分な証拠から、この発見にはもはや異論はないはずだ」と語った。
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