「環境汚染」と「がん死」の関係

「生活習慣」や「社会経済的要因」が、がん死亡率に影響することは先行研究から広く知られる。イタリア・ボローニャ大学を中心としたグループは、AI手法によって「環境汚染もまた、がんの重要な誘因の1つである可能性」を示唆する研究成果を発表した。

Science of the Total Environmentに掲載された同研究は、ISTAT(イタリア国立統計研究所)が公開する、2009〜2018年の10年間における国内地域別のがん死亡率データベースに基づき、AIアプローチによる分析を行っている。環境の汚染源は産業由来や農薬、焼却炉、自動車交通など35種が検討された。分析の結果、肥満や喫煙、低所得、肉類の高消費、野菜果物の低消費といった一般的ながんリスク因子の影響が小さい地域でも、強い環境汚染によって、がん死亡率が全国平均を上回っていた。また、がん死亡率への影響が大きい環境汚染源としては、大気の質、ごみ埋め立て地の存在、都市部、自動車交通の密度、農薬の順となることが示された。

筆頭著者でボローニャ大学のRoberto Cazzolla Gatti教授は「環境汚染が高度な地域では、たとえ健康的な生活傾向であっても、がん死亡率の上昇傾向を認めた。この結果は、健康的なライフスタイルがリスク低減に役立つ事実や、遺伝学的な探究の努力を疑問視するものではない。汚染地域に住むことで、健康的な生活から得られる利益が相殺されてしまい、がんを誘発する可能性がある」と語り、環境汚染に伴う健康影響のさらなる研究促進、および汚染の軽減政策の重要性を強調する。

関連記事:

  1. 住環境による健康被害を防ぐAI
  2. 浮遊粒子状物質と腎機能の関連 – 中国250万人の分析結果より
  3. AIによる「人道支援のターゲティング」
TOKYO analytica
TOKYO analyticahttps://tokyoanalytica.com/
TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
RELATED ARTICLES

最新記事

注目の記事