近年、PD-1やそのリガンドであるPD-L1遮断に代表される「がん免疫療法」は目覚ましい進歩を遂げている。しかし、免疫療法薬が新たな治療の可能性を提供する一方、これらの治療に反応する患者は20〜40%程度に過ぎない。大多数は奏効しないか、薬剤耐性を獲得する。研究者たちは現在、より多くの患者に恩恵をもたらすため、がん免疫療法の範囲を拡大する方法を模索している。
方法の1つが、非受容体型チロシンホスファターゼ2型(PTPN2)とその近縁のスーパーファミリーであるPTPN1を介するものだ。これまでの研究で、これらは、腫瘍指向性免疫を減弱させることにより、腫瘍形成を促進する免疫細胞のシグナル伝達経路の制御に関与する「重要な調節因子であること」が同定されている。PTPN2/PTPN1阻害剤の開発は有望ではあるものの、活性部位が陽イオン性であり、タンパク質表面の性質が比較的浅いため、薬物動態が好ましくないという課題に直面していた。
重要なマイルストーンとして、Abbvieの研究者らは、構造ベースの薬物設計と薬物様特性の最適化を通じ、デュアルPTPN2/N1阻害剤ABBV-CLS-484を発見した。現在、AI創薬企業であるInsilico Medicineは、同社のジェネレーティブAIドラッグデザインエンジン「Chemistry42」の支援を受け、薬剤類似性とin vivo経口吸収性を有する新規PTPN2/N1阻害剤をデザインするための高速追従戦略によるプログラムを開始した。この研究は5日付のEuropean Journal of Medicinal Chemistryに掲載された。
研究者らは、参照化合物として既知のPTPN2/N1阻害剤の構造をChemistry42に入力し、リガンドベースのドラッグデザイン戦略に基づいて一連の新規PTPN2/N1阻害剤を生成した。さらに、最も有望な分子を最適化して合成し、望ましいADME特性を持つ候補化合物を得た。Insilicoの化合物は、in vitro試験において、参照化合物と比較し、経口吸収性、全身曝露性が向上し、同等の生物学的活性を示している。さらにInsilicoの化合物は、マウスモデルにおいて参照化合物と同等の有効性を示した。
この研究で最も重要な進歩の1つは、「Chemistry42の高速追従性を検証したこと」であり、これによりユーザーは既存の分子をより望ましい特性に迅速に改良することができる。本論文では、ナノモルの阻害力、良好なin vivo経口バイオアベイラビリティ、強固なin vivo抗腫瘍効果を示す新規PTPN2/PTPN1阻害剤を報告した。現在、さらなる追加研究が進行している。
参照論文:
関連記事: