視覚認知は人の生活において重要な役割を果たす。特に会話時、他者の表情から得た視覚情報は内容理解の拠り所であるため、視覚認知の異常は「円滑で現実的なコミュニケーション」の主要な阻害因子となる。アルツハイマー病患者は記憶障害のみならず、中枢神経障害を背景機序とした視覚処理異常をきたし得ることが知られており、現症状が「記憶障害と視覚認知障害のいずれの結果によるものなのか」を識別することは、アルツハイマー病患者の治療管理計画の策定にとって重要となる。
Mathematical Methods and Data Analysis in Health and Biomedical Sciencesに掲載されたリトアニア・カウナス工科大学による研究では、健常者とアルツハイマー病患者を対象として、人の顔写真を提示した際に被験者から得られる脳波を測定し、視覚認知を分類するための畳み込みニューラルネットワークをトレーニングした。提示される顔写真は、感情面では「中立」と「恐怖」の表情が用意され、親近感の面では「被験者の既知の人物」と「ランダムに選ばれた人物」が示された。「提示された顔が反転表示されているか否か」を判定するボタンを押させることで、顔を正しく認識しているかを把握した。本深層学習モデルにより、アルツハイマー患者にみられる認知の障害が、記憶と視覚とどちらのプロセスによるものか判断できるという。
著者の1人であるRytis Maskeliūns氏は「アルツハイマー病にはいまだ有効な治療が乏しいが、患者の健康寿命を延ばし維持することは可能だ。今回は標準的な脳波データを用いて研究を行ったが、ニューロンの活動をより正確に測定できる侵襲的な微小電極から集めたデータを用いれば、AIモデルの品質は大幅に向上するだろう」と語った。
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