Science誌に掲載された、イスラエル工科大学のチームによる新しい研究論文は「脳で行う計算処理が、実はニューロン間の相互作用だけでなく、単一ニューロン内部でも起こっていること」を明らかにした。この事実は「機械学習の基本思想」にも大きな影響を与え得るもので、新たなアーキテクチャのヒントとなる可能性があり、注目を集めている。
チームの研究論文では、大脳皮質の最も大きな錐体細胞に着目している。運動に大きく関与するこれらの細胞は、多くの枝、副枝、亜副枝を備えた大きな樹状突起を持つ。研究チームは、これらの枝が単に情報を伝達するだけではなく、各枝は、受け取った情報に対して独自に計算を行い、その結果をより大きな枝に渡すことを繰り返していることを明らかにした。複数の枝は互いに作用し合い、合成された計算結果を増幅させることができるため、結果として個々の神経細胞の中で複雑な計算を実現しており、研究チームは「神経細胞が区画化され、その枝が独立して計算を行うこと」を初めて明らかにしたとする。チームのJackie Schiller教授は「これまで、ニューロンは『鳴るか、鳴らないか』の笛のようなものだと考えられていた。しかし実際は、無限の音色を奏でることができるピアノのようなものだった。脳内で奏でられる複雑なシンフォニーこそが、複雑で正確な『運動』を学び、実行することを可能にしている」と述べる。
この研究成果は、機械学習コミュニティにとっても大きな刺激となる。現在、深層学習で活用されているニューラルネットワークは人間の神経細胞を模したものとなるが、実際の脳構造と比べると極めて原始的だ。「実際の脳がどのように働いているか」を知ることは、より複雑なニューラルネットワークの設計と、さらに複雑なタスクの実行を実現する可能性がある。
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