新生児の脳波異常を音で聴き分ける

新生児のけいれん発作を正確に評価するため、脳波(EEG)はスタンダードな検査方法だが、信号を十分に解釈できる専門家へのアクセスは限定される。そのため一般の小児科スタッフは、複雑な新生児のEEG信号の解釈を誤るリスクがある。アイルランド・コーク大学の研究チームは、人間が直感的に解釈できるよう「EEG信号を音に変換するAI手法」を開発している。

Scientific Reportsに発表された同研究では、ソニフィケーション(sonification)という「データを音で表現する手法」に基づき、長時間のEEGデータを短時間に圧縮して可聴化するアルゴリズムを開発した。これにより、従来では多量の脳波画像をスクロールして視覚的に識別していた診断プロセスを、わずかな時間で「聴き分けるもの」とすることを可能にした。本研究では、数時間分のEEGデータを数秒間のステレオ音に収め、人間による異常識別を行なった結果、熟練した神経生理学者が脳波を解釈するのと同程度の識別精度が得られた。また、AI単独よりも、人間の聴覚特性を融合することで優れた精度が示されていた。

医療の現場においては、心電図や酸素飽和度モニターにおける異常を、音のリズムやピッチで医療者に知覚させることは一般的に行われてきた。さらに本研究は、人間とAIを統合したシステムである、いわゆる「Human-in-the-Loop(HITL)」の一例となる。チームでは、本研究を人間の専門家とAIモデルの理想的な共生として、双方の長所を活かすと同時に、それぞれの限界を克服する可能性を期待している。

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