オーストラリアにおける自殺関連統計では、1日当たり9名が自らの命を絶ち、15〜44歳の若年者における死因の第1位で、自殺未遂は死亡者の30倍との推計がある。自殺には多くの複雑な動的要因があるため、従来のリスク予測モデルでは実用性が不十分との指摘も多く、AI手法に基づく新たなリスク評価に期待が集まっている。豪ニューサウスウェールズ大学(UNSW)のチームは、自殺リスク予測に関する発表済み機械学習モデルについての性能を評価し、その有効性について論じている。
Journal of Psychiatric Researchに掲載された同チームの研究では、これまでに開発された54の機械学習アルゴリズムに対してメタ分析を行い、自殺関連リスク(自殺念慮・未遂・死亡)の予測性能を評価した。その結果、機械学習モデルは、従来の臨床的・理論的・統計的な予測モデルに比較して良好なベンチマーク性能を示し、AUC 0.86・感度66%・特異度87%を示していた。また、自殺念慮・未遂・死亡に対する個別のAUCはそれぞれ、0.88、0.87、および0.84とほぼ同等であった。
クイーンズランド州で行われた自殺者対象の系統的分析では、「正規の自殺リスク評価を受けた人のうち75%が低リスクに分類され、高リスクには1人も分類されていなかった」とする調査結果もあるという。UNSWで「青少年の自殺予防研究」に取り組むKaren Kusuma博士は「従来の自殺リスク評価は性能を支持する証拠が不十分のまま、現場では標準的な慣行として用いられてきた。我々はこのプロセスを改革しなければならない。自殺関連リスク予測への機械学習アルゴリズム利用は新しい研究領域で、我々が確認した研究の80%は過去5年以内に発表されている。現場への導入はまだ先になるが、自殺リスクスクリーニングの精度を向上させる有望な手段であることが各種研究で示されてきた」と語っている。
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