本研究は、入院患者の日常的な心電図(ECG)検査にAI解析を組み込み、死亡リスクの高い患者のアラートを医師に即時通知する「AI-ECGアラート」が、既存の迅速対応システムと連携して90日間の全死因死亡率低減したという先行研究に加え、その医療費用対効果を評価したものだ。AIにより死亡率が低下すると同時に、集中的治療や検査の増加により医療コストも上昇するため、その費用対効果は不明だった。研究結果は台湾の研究チームよりnpj Digital Medicineに公開された。
本RCTには計15,965名が参加し、介入群(AI-ECG)8,001名、対照群7,964名で比較した。90日死亡率は介入群3.6%、対照群4.3%と有意に低下し、平均医療費はそれぞれ6,204米ドル、5,803米ドル(差額402米ドル)とややコスト増となった。これは、1人当たりの追加コスト約59,500米ドルで死亡を1件回避できる計算(95%CI:−4,657~385,950)となる。被験者の平均年齢が61歳であり、台湾の平均寿命80歳を考慮し控えめに見積もっても7~12年生存することを考えると、この追加コストは台湾の一人当たりGDP(33,234米ドル)の水準を大幅に下回る結果となり、費用対効果は十分に見込める結果となった。
著者は「本システムが短期的にはわずかなコスト増で死亡率を有意に低減し、中所得国の保険者視点でも実施価値が高い」と述べている。一方、試験は台湾単一医療体制下かつ90日間の解析に限定され、実装・保守コストや長期的評価を含まない点に限外があり、今後は他国・他施設への外部妥当性検証、導入コストを含む完全コスト評価、アラート閾値の最適化、長期転帰のQALY換算分析を進め、臨床現場への導入可能性を検証する必要があるとしている。
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