大腸がんの診断、治療、予後予測において、分子学的評価は極めて重要である。これまでの研究では、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色からKRAS変異など特定の遺伝子マーカーの変化を予測するモデルが存在したが、それぞれのモデルを個別にトレーニングする必要があり、多大な労力を要していた。今回、The Lancet Digital Healthにおいて、トランスフォーマーを用いて大腸がん病変のHE染色標本から複数の遺伝子変異を同時に予測するマルチターゲットモデルが発表された。
研究チームは、7つのコホートから得られた大腸がん患者1,912名のHE染色全スライドをデジタル化し、多数のバイオマーカー(マイクロサテライト不安定性(MSI)、ハイパーミュテーション、BRAF、KRAS、RNF43、BMPR2、ZNRF3、TP53、APCなど)を検出するトランスフォーマーモデルを訓練した。その結果、このマルチターゲットモデルは、HE染色組織標本から複数のバイオマーカーの変異を予測し、単一ターゲットのトランスフォーマーモデルよりも優れた性能を示した。具体的には、AUCに関して、マイクロサテライト不安定性(MSI)検出は単一ターゲットで0.91、マルチターゲットで0.93、BRAF変異検出は単一ターゲットで0.72、マルチターゲットで0.78、KRAS変異検出は単一ターゲットおよびマルチターゲットともに0.65であった。
本研究では、大腸がんのHE染色画像から、複数の遺伝子変異およびマイクロサテライト不安定性を同時に予測できることが示された。研究者らは、「今回開発したマルチターゲットモデルは、他のがん種や大規模コホートでの検証を経て、費用対効果の高い遺伝子変異のスクリーニングや診断に活用できる可能性がある」と期待を示した。
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