医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例人間の生涯にわたる健康経過を予測するAI

人間の生涯にわたる健康経過を予測するAI

人間の生涯における疾病の発症や進行は多岐にわたり、その複雑なパターンを把握することは困難であった。従来のリスク予測モデルの多くは特定の疾患に限定されており、複数の疾患間の相互作用や進行を考慮した予測はほとんど存在しなかった。こうした背景のもと、研究チームは、ChatGPTなどで知られる大規模言語モデル(LLM)の技術を応用し、個人の長期医療データから疾病の進行過程を包括的に学習するAIモデル「Delphi-2M」を開発し、その成果をNature発表した。

研究チームは、文章における「単語」のつながりを学習するのと同様に、過去の診断情報、死亡情報、年齢、生活習慣因子を「トークン(言葉)」としてAIに学習させた。英国バイオバンクの約40万例で学習を行った後、デンマーク全国患者登録の193万例を用いて外部検証を実施した。Delphi-2Mは1,000以上の疾患カテゴリーにおいて高い予測精度を示し(内部検証AUC 0.76)、死亡予測においてはAUC 0.97を記録した。本モデルは単なる予測にとどまらず、病気の「連鎖」も明らかにする。例えば、「消化器系の疾患歴がある場合、膵臓がんのリスクが19倍になり、その後の死亡リスクが約1万倍に跳ね上がる」といった具体的なリスク推移を提示可能である。

研究チームは、Delphi-2Mが20年以上にわたる将来の健康経路を予測できるとしており、今後は予防医療や臨床意思決定支援への応用が期待される。一方で、学習データとなった英国バイオバンクは白人や富裕層が多いというバイアスを含んでいるため、異なる地域や民族集団における公平性の検証が必要であるとしている。

参照論文:

Learning the natural history of human disease with generative transformers

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Kazuyo NAGASHIMA
Kazuyo NAGASHIMA
長島和世 群馬大学医学部卒(MD)、The University of Manchester(MPH)。WHO/EMROにて公衆衛生対策に従事。2025年度より、アラブ首長国連邦にて、プライマリーケア診療。
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