前立腺がんは米国で男性の9人に1人がかかるなど、注目度が高い。これまで、前立腺がんリスク評価へのAIの応用(過去記事)などを紹介してきた。最新のガイドラインにも書かれている「フォーカルセラピー(focal therapy)」は前立腺の中で特にがんの「部分」に焦点を当てた治療法である。放射線・超音波・凍結・光線・電圧・レーザーなどさまざまな原理の治療装置が開発されてきた。できるだけ周りの正常部分を残して、排尿や性機能に関する合併症を起こさないことを期待している。
Medgadgetの記事で紹介されているAvenda Healthは、AIアルゴリズムを利用し、治療部位を最小限に絞った前立腺組織内レーザー照射装置を開発している。同社のAIは画像検査と病理診断の大規模データから開発され、臨床試験ではレーザー治療から1年間、排尿と性機能の合併症がゼロと報告されている。2019年にシリーズAラウンドを開始した一方、アメリカ国立衛生研究所(NIH)からは310万ドルの研究助成も受けており、2020年に多施設臨床試験を始める予定である。
フォーカルセラピーが適する前立腺がんの条件は検討が続くが、前向き試験はいずれも良好な成績と報告されている。過剰な治療と合併症が問題となった歴史や、リスクが低いがんは発見後も治療せずに監視できる性質など、前立腺がん治療にはまだまだ議論の余地が多い。医療AIの台頭によって、これからも戦略が変わってゆく可能性が高いがんと言えるだろう。