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クローン病の治療反応性を予測する機械学習モデル

クローン病は炎症性腸疾患のひとつで、消化管の様々な部位に炎症や潰瘍を生じ、病変部と正常部が繰り返す「非連続性病変」を特徴とする。本邦においても指定難病に定められ、登録患者数は増加の一途を辿っている。近年の研究から、クローン病治療薬であるウステキヌマブの反応が患者によって異なることが報告されているが、その原因は明らかにされていなかった。

中国・四川大学の研究チームは、遺伝子転写プロファイリングに基づき、ウステキヌマブへの反応性を予測する機械学習モデルを開発した。Immunity, Inflammation and Diseaseから1日公開されたチームの研究論文によると、86のクローン病サンプルと26の正常サンプルを含むGSE112366データセットを解析し、この成果を得たという。まず発現変動遺伝子(DEGs)を同定し、Gene Ontology (GO) とKyoto Encyclopedia of Genes and Genomes (KEGG) によるパスウェイ解析を行ったのち、ラッソ回帰によってウステキヌマブ反応予測モデルを構築した。研究では計122個のDEGsが同定され、クローン病患者では免疫応答経路が有意に濃縮されていることが明らかになった。ウステキヌマブ反応予測のための4つの遺伝子(HSD3B1、MUC4、CF1、CCL11)からなる回帰式は、トレーニングセットとテストセットにおけるAUCとして、それぞれ0.746と0.734を示していた。

著者らは「クローン病患者のウステキヌマブ反応に関する遺伝子発現予測モデルを初めて構築した。後続研究への貴重なデータソースとなる」として研究および獲得知見の重要性を強調する。クローン病は未だ発症原因の解明に至らず、根本治療法も得られていない。有効な治療・管理戦略策定を強力に支援する本研究成果は、患者および医療者の切なる願いを後押しする。

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