米ハーバード大学、ノースカロライナ大学チャペルヒル校などの研究チームは、米国における子宮頸がんの撲滅予測モデルを構築した。このなかで、貧困率の低い地域では2030年までに子宮頸がんをほぼ完全に撲滅できるとしたのに対し、貧困率の高い地域では2044年までは撲滅できないことを明らかにし、貧困率が主要な阻害因子となって差を生み出すことを指摘している。
米国では毎年、約14,000件の子宮頸がんの診断があり、年間約4,000人が死亡している。子宮頸がんの90%以上は、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によって引き起こされる。2006年に欧米で生まれたHPVワクチンは現在、がんリスクを高めることが知られているものを含め、9種のHPVを予防することができる。米国では9歳から15歳までには2回、15歳から26歳までには3回の接種が推奨されている。
Cancer Epidemiology Biomarkers & Preventionからこのほど公開されたチームの研究論文によると、性感染症で用いられている予測モデルを元に、HPV感染と進行をモデリングしたという。このモデルでは、ワクチンを接種した人としていない人の間でHPVが感染するリスク、HPVが子宮頸がんに進行する確率、子宮頸がん検診の受診率、効果的ながん治療の可能性などを考慮している。貧困率が最も低い地域と最も高い地域を想定した2種類のモデルを作成し、2070年までの子宮頸がん罹患率をシミュレートしたところ、低貧困地域では2030年までに子宮頸がんの撲滅に向けた閾値に到達するのに対し、高貧困地域では2044年まで閾値に到達しないことが明らかとなった。この結果から、高貧困地域では今後50年間に「子宮頸がんの過剰発生が21,604件に上る」と推定されている。
研究チームは「このような健康格差はワクチン接種率の違いによるものだけではない」とする。実際、高貧困地域と低貧困地域で子宮頸がん検診の受診率に差があることが確認されたほか、高貧困地域では、がんを引き起こすものの「ワクチンのターゲットとなっていないHPV型」の発生率が高いことも示されている。これらを踏まえ、研究チームは次なる研究目標として「将来的な格差を解消するためには、どのような政策を取るべきかを明らかにすること」を掲げている。
関連記事: