心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、生死に関わるような極めて強いストレス後に、フラッシュバック・抑うつ・回避行動・過覚醒などをきたす精神疾患である。COVID-19パンデミックを経て、医療従事者など特定職域でPTSDを含むストレス関連疾患が増加したことや、感染からの回復者にPTSDの診断を受ける者が一定割合でみられることなどを背景に、世界的な罹患率増加が観測されている。医療へのアクセス困難が今後も起こり得る状況に対し、PTSDの診断を補強するための遠隔スクリーニングツールが検討されており、カナダ・アルバータ大学のチームからは「音声テキストからPTSDを約80%の精度で検出する機械学習モデル」が公表された。
Frontiers in Psychiatryに発表された同研究では、PTSDの診断を持たない188名と、PTSD患者87名を対象とし、人工キャラクター「エリー」とビデオ通話でインタビューを行い、得られた音声テキストから感情を分析するAIモデルのトレーニングを行った。センチメント分析と呼ばれる、テキストの感情的特徴やポジティブ/ネガティブな考えを分類する機械学習手法を用い、PTSD患者に特有の中立的あるいは否定的な考え方を話す頻度をスコア化することで、スクリーニングツールとしての性能を発揮している。
アルバータ大学のインタビューに対し、プロジェクトを率いたJeff Sawalha氏は「先行研究と同様に、PTSD患者は中立的で感情を麻痺させて多くを語らない傾向があり、一方ではネガティブな感情を表現する患者もいる」と説明する。音声テキストデータのみでPTSD患者を識別するという成果から発展し、チームではアルツハイマー病や統合失調症など言語的特徴が強い精神神経疾患をさらなる分析対象として検討している。
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