「貧困地域で正確な妊娠週数」を算出するAI超音波システム

妊娠週数を超音波検査から計算することは、母子の健康管理に不可欠である。しかし、医療リソースの乏しい環境において、エコー機器は高価であるとともに、電力や技師、結果を解釈する専門家らを要する点で利用の限界がある。米Butterfly Network社は、全世界で利用可能な手頃で使いやすい超音波診断システムの開発を進め、サハラ以南の貧困地域を中心に普及を目指している。

Butterfly社の携帯型超音波装置「Butterfly iQ」は、スマートフォンに接続可能な小型プローブで、妊娠週数を自動で推定するAIエンジンを備えている。Butterfly iQの性能検証はノースカロライナ州およびザンビアで4,695名の妊婦を対象に行われ、NEJM Evidenceから成果が発表された。その結果として、「AIモデル」と「訓練を受けた技師」との間では算出する妊娠週数の平均絶対誤差(MAE: mean absolute error)は同等であることが示された。また、実際にButterfly iQの廉価なバッテリー駆動式エコー装置を用いても、その誤差に有意差を認めなかった。さらに、エコー検査の訓練を受けたことのないザンビアの看護師・助産師が収集したデータにおいても、誤差は同等であったという。

Butterfly社のインタビューに対し、ザンビアに常駐し共同研究にあたったノースカロライナ大学産婦人科学講座助教授のJoni Price氏は「ポケットサイズのButterflyエコープローブとスマートフォンを手にすることで、ザンビアの助産師は特別な訓練を受けずとも、認定エコー技師と同等の精度で妊娠週数を評価できる。このことは、ザンビアのような環境における産科医療に革命を起こす可能性を秘めている」と述べた。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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