多くの研究がAIに内在する偏り(バイアス)を理解しようとする一方で、人間による表現の偏りを明らかにするツールとしてAIを活用する動きもある。カナダ・マギル大学の研究チームは、AIが機械的に生成したCOVID-19関連ニュースと実際のニュース報道を比較することで、その偏りを特定したとしている。
ACL Anthologyに掲載された同研究では、COVID-19パンデミック以前に学習した言語モデル「GPT-2」を用い、CBC(カナダ放送協会)が報道したCOVID-19関連記事の見出しを材料として、ニュース記事を人工的に生成した。これらと、2020年1月23日〜5月5日までのCBCの実際の報道とを比較したところ、AI記事はCOVID-19に対してよりネガティブな姿勢を示した一方、CBCの実際の報道は、医学的な緊急事態にはあまり焦点が当てられず、人物および地政学に積極的に焦点が当てられていたという。
著者のAndrew Piper教授は「AIの生成記事では、COVID-19を健康上の緊急事態として捉え、生物学的・医学的用語で出来事を解釈した。それに対して、CBCの報道は疾患を中心とせず人物に焦点を当てる傾向があった。CBCの表現は想定以上にポジティブで、一種の『旗下結集効果(※危機の際に政治・指導者に対する支持が高まる現象)』を生み、人々の恐怖心を和らげる機能を果たした。この研究は、『報道された記事』と、『報道できたかもしれない記事』を比較することで、報道機関が行った編集上の選択について考察できる」と語っている。
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