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AIツールで理解する「ALS患者の診断が遅れる背景」

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、全身の筋力低下が進み呼吸器系トラブルなどから生命を脅かす状態に至る神経変性疾患である。ALSの生存率向上には早期発見が重要だが、初期の診断の遅れが課題となっている。スペインのアルバセテ大学病院の研究チームは、「ALS患者の診断に遅れが生じる背景」をAIツールで解析している。

Scientific Reportsに掲載された同研究では、スペイン国内の医療ネットワークSESCAMの電子カルテ記録に自然言語処理(NLP)を用い、ALS患者250名の情報を解析した。本研究では、スペイン拠点のSavana社「EHRead」(過去記事参照)のNLP技術を用いている。解析の結果、ALSの特徴的な症状(呼吸困難・構音障害・嚥下障害・筋線維束性収縮)に関して、患者全体では症状発現から診断までの中央値は11ヶ月であり、正診断前に専門となる神経内科医を受診した者は38.8%にとどまった。特に初期症状が呼吸困難であった患者では、診断までの中央値が12ヶ月と顕著に遅くなる傾向がみられた。

研究チームでは「呼吸困難といった他の疾患でもよく観察される初期症状により、神経科医の前に別の診療科に紹介されることが、ALS患者において診断が遅れる一因となっている」と指摘する。ALSのように有病率の低い(10万人あたり4.1〜8.4人)稀な疾患では、データベース解析から患者像の理解がさらに進むことが期待されており、実際にNLPをはじめとしたAIツールによる情報の抽出・解析は多くの新しい知見をもたらしている。

参照論文:

Symptoms timeline and outcomes in amyotrophic lateral sclerosis using artificial intelligence

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