過去20年間において、生物医学研究への資金提供は世界的に倍増したが、新薬の承認は3分の1となった。ここでは、対象を絞ったより特異的な薬剤と治療法による「精密医療(precision medicine)」の促進が求められていることには明確なコンセンサスがある。このブレイクスルーを実現するためには、日常診療によって生み出される膨大な記録情報である電子カルテ記述を活用することが欠かせない。
欧州連合(EU)の政務執行機関である欧州委員会(EC)はこのほど、EUが2018年から支援するプロジェクトの成果報告を行った。スペインに本拠を置くSavanaに対する支援は、2020年4月末までで120万ユーロを超える。SavanaのEHReadは、深層学習と自然言語処理によってカルテなど臨床記録上のフリーテキストを構造化・匿名化し、臨床研究の推進や日常臨床の質的向上に結びつく知見抽出を助ける。同システムは追加的なセキュリティレイヤーによって、競合他社と比較して大幅にプライバシー保護を強化しながら、非構造化テキストから効果的にデータベース構築を行うことができる。また、研究者の効率的な研究活動をサポートするため、臨床変数間の相関関係を自動検出・提示できるほか、疾患の予後因子の特定や薬理学的有効性の程度を評価する機能などを併せ持つ。
現在、EHReadは17の医療分野において、世界各国における臨床研究に取り込まれている。うち、2つの国際研究においては慢性閉塞性肺疾患とCOVID-19に関する有意な研究成果に結びついており、今後のツール活用と知見導出にも期待が集まっている。