マンスリーアーカイブ 2月 2025

癒着性小腸閉塞の手術適応を識別するAI

癒着性小腸閉塞は、腸管の癒着によって生じる閉塞性疾患であり、一部症例では腸管の壊死が進行し手術が不可欠となる。CT画像は診断の重要な手段とされるが、壊死の早期識別には限界がある。こうした課題を踏まえ、中国・青島大学の研究チームは、癒着性小腸閉塞における手術適応を予測する機械学習モデルを開発した。 今月発表された研究論文によると、チームは2019年から2022年に収集した188例のCT画像データを用い、トレーニング(n=131)とテスト(n=57)の2つのコホートに分け、臨床指標や血液検査値、CT画像の特徴を収集した。白血球数、閉塞時間、感染徴候(発熱、頻脈、腹膜炎)、およびCT所見(腸管壁の肥厚、腹水、腸間膜脂肪のHigh densityなど)を組み合わせた予測モデルを作成し、手術適応の予測精度を評価した。結果、テストコホートでのAUC(曲線下面積)は0.761(95% CI、 0.628–0.893)を記録し、従来のCT所見や血液検査のみでは識別が難しかった腸管虚血の検出精度を向上させる結果となった。 本研究成果は、癒着性小腸閉塞の手術適応予測の精度向上だけでなく、不要な外科的介入の抑制にも寄与し得る点で意義が大きい。特に、診療リソースの逼迫が課題となる医療現場において、CT画像を活用した客観的な評価手法の導入は、臨床判断の均一化と効率化に貢献すると期待される。 参照論文: Development and validation of a CT-based radiomic nomogram for predicting surgical resection risk in patients with adhesive small bowel obstruction 関連記事: 腹部ヘルニア手術後の有害転帰を高精度に予測 UCLA「MOVER」 –...

脳出血後の血腫拡大をAIで予測する試み

非外傷性脳出血(ICH)後に血腫拡大が見られる患者は、しばしば不良な経過を辿るため、予防的な治療介入が必要となる。一方、画像検査の視覚的特徴等を基に臨床医が血腫拡大を推測することは難しく、予測モデルの研究深化が望まれている。このたび米ニューヨーク大学の研究チームは、機械学習モデルが専門医の予測精度を上回ったとの研究成果をNeurocritical Care誌に発表した。 同研究では、高血圧性急性脳出血の第2相試験(ATACH-2)に参加した900人のICH患者のデータを用いて、機械学習モデルの教師あり学習を行った。そして独立したテストコホート(n=279)で、血腫拡大(24時間以内の33%以上、または6mL以上の拡大と定義)の予測性能を評価し、また専門医による予測精度との比較を行った。モデルは、CT画像のみで学習を行ったトランスフォーマーモデル(DLモデル)と、CT画像と臨床データで学習したランダムフォレストモデル(RFモデル)の2種類を用いた。その結果、専門医による血腫拡大予測のAUCが0.591なのに対し、DLモデルのAUCは0.680、RFモデルのAUCは0.677と、臨床医を上回る予測精度が得られた。 著者らは「本モデルのAUCは必ずしも高いとは言えないが、専門医による予測がそれ以上に困難であることを踏まえると、補助的に活用できる余地はあるだろう」と述べている。今後は、多様な出血性素因を持つ大規模な集団における厳密な検証が望まれている。 参照論文: Predicting hematoma expansion after intracerebral hemorrhage: a comparison of clinician prediction with deep learning radiomics models 関連記事: 重篤な脳損傷患者の回復を予測するAI 機械学習による脳腫瘍の悪性度判定 CTスキャンから「MRI品質の脳画像」を提供

造影MRI画像から末梢動脈疾患を識別するAI

従来の画像を用いた末梢動脈疾患(PAD)診断は主に大血管の狭窄を評価するものであり、微小血管の血流障害を定量的に評価する方法は確立されていなかった。このほど、米ペンシルバニア州立大学やヒューストン・メソジスト病院、ベイラー医科大学などの合同研究チームは、造影磁気共鳴画像(CE-MRI)と機械学習を組み合わせたPADの新たな診断手法を発表した。本成果はNatureの関連誌であるScientific Reportsで公開されている。 同研究では、56名の参加者(PAD患者36名、対照群20名)の下腿筋のCE-MRIデータを分析し、PAD患者の微小血管障害を明確に可視化した。 造影剤を用いたMRI撮像後、時間経過による各筋群の信号強度変化を追跡し、各画素を過灌流、正常灌流、低灌流に分類した。このデータを基に機械学習の決定木分類器を訓練した結果、PAD患者と対照群を87.6%のF1スコアで識別できた。また、低灌流領域の割合を用いることで、運動能力が低いPAD患者や糖尿病を合併するPAD患者をそれぞれ67.6%、70.3%の精度で識別可能であった。 研究チームは「本手法は、非侵襲的に微小血管の灌流障害を評価できることが大きな利点だ。また、従来の診断法では把握しにくいPADの進行度や患者ごとのリスク評価に貢献できる可能性がある」と述べている。今後は、大規模データを用いたモデルの精度向上と、臨床応用に向けたシステム開発を進める予定だ。 参照論文: Contrast-enhanced magnetic resonance imaging based calf muscle perfusion and machine learning in peripheral artery disease 関連記事: CTから冠動脈の血流低下を予測するAI 腹部大動脈瘤検出AI「Viz Aortic」 – 米国病院で初採用 心臓造影MRIから突然死のリスクと発生タイミングを予測するAI研究

無下剤バーチャル内視鏡検査システムを開発するBoston Medical Sciences、計9.3億円を追加調達

Boston Medical Sciences株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役:岡本将輝)は、既存投資家であるBeyond Next Ventures株式会社に加え、JICベンチャー・グロース・インベストメンツ株式会社、グローバル・ブレイン株式会社、明治安田生命保険相互会社(明治安田未来共創ファンド)、東日本旅客鉄道株式会社を主たる有限責任組合員とする高輪地球益ファンド、三菱UFJキャピタル株式会社、株式会社ユカリア、株式会社地域ヘルスケア連携基盤を新規投資家として迎え、シリーズAラウンド(プレシリーズAラウンドを含む)にて9.3億円の資金調達を実施した。 ハーバード大学医学部、およびマサチューセッツ総合病院で教員・研究者を務める医師が2023年4月に設立した同社は、AIの研究開発と医療画像解析、臨床医学への強力な技術・経験をバックグラウンドとして、「下剤不要のバーチャル内視鏡検査システム」である「AIM4CRC」を世界で初めて、日本から臨床実装することを目指している。今回の調達資金は、研究開発体制のさらなる強化、目前に控える国内治験の実施、日本・米国の薬事対応、および市場展開を見据えた体制拡充、に充てられる。 これまで同社は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ディープテックスタートアップ支援事業」や、厚生労働省の「プログラム医療機器に係る優先的な審査(優先SaMD)」、米Mayo Clinicと日本貿易振興機構(ジェトロ)が提供する「HealthTech Gateway "AI Medical in the US"」に採択されるなど、加速度的な成長を遂げてきた。「誰一人、大腸がんで亡くならない世界」を実現するため、Boston Medical Sciencesは次のステージに進む。

乳腺組織の老化関連核形態と乳がんリスク – AIによる評価

これまでの乳がん研究では、細胞老化が腫瘍抑制と促進の両面で関与することが示唆されていたが、健康な乳腺組織における老化細胞の分布が将来の乳がん発症リスクに影響を与えるかどうかは不明だった。米インディアナ大学の研究チームはこのほど、健康な女性の乳腺組織切片画像から細胞老化を検出・解析する深層学習モデルを開発し、その結果、老化の種類によって乳がんの発症リスクが増減するこのを明らかにした。研究成果は、The Lancet Digital Healthからオンライン公開されている。 研究では、米インディアナ大学のKomen Tissue Bankに登録された4,382人の健康な女性の乳腺組織切片を対象に、細胞老化の空間的分布と乳がん発症リスクの関係を調査した。これらの画像から3,200万個以上の細胞核を解析し、異なる老化誘導因子(放射線照射、複製疲労、薬剤処理)に基づく3種類の老化モデル(IR、RS、AADモデル)を適用した。その結果、乳がん発症群と非発症群で細胞老化のパターンに有意な違いが認められ、特に脂肪組織における薬剤誘導型老化細胞(AADモデル)の割合が高い場合は乳がんリスクが低下し、逆に放射線誘導型老化細胞(IRモデル)が高い場合は乳がんリスクが上昇することが示された。また、従来の乳がんリスク評価指標であるGailスコアと組み合わせることで、より精度の高いリスク評価が可能であることが明らかになった。 研究者らは「老化細胞の種類ごとに乳がん発症リスクが異なる点を強調し、AIを活用した細胞老化の解析は非悪性乳腺生検の臨床的有用性を高める可能性がある」と述べている。将来的には、老化関連バイオマーカーの標準化や、他のがん種への応用も期待される。 参照論文: Deep learning assessment of senescence-associated nuclear morphologies in mammary tissue from healthy female donors to predict future risk of...

日常診療の超音波検査から心筋症の早期発見を行うAI

患者状態を把握するための超音波検査(Point-of-care ultrasonography:POCUS)は日々診療現場で行われているが、得られたデータの活用が進んでいない現状がある。このほど米イェール大学の研究チームは、POCUS動画を元に心筋症のスクリーニングを行う高性能なAIモデルに関する研究成果を発表した。 Lancet Digital Healthに掲載された同研究では、290,245本のPOCUS動画を用いて、畳み込みニューラルネットワークの学習を行った。各動画について「肥大型心筋症」「トランスサイレチン型アミロイドーシスによる心筋症(ATTR-CMによる心筋症)」の判別を行うタスクを行わせた結果、肥大型心筋症についてAUROCが0.903、ATTR-CMによる心筋症についてAUROCが0.907という高い精度を示した。また、肥大型心筋症患者の58%、ATTR-CMによる心筋症患者の46%が、確定診断の約2年前時点での動画で、同モデルによりスクリーニング陽性と判定されることが分かった。また、心筋症の診断が無い患者の追跡調査を行ったところ、同モデルで心筋症の確率が高いと示された患者群で有意に死亡リスクが高いことが示された。 研究チームは「AIモデルを用いて臨床診断の数年前から疾患を検出することで、治療可能な心筋症に早期介入することが可能になるだろう。これからは患者の層別化にも活用したい」と述べている。今後は前向き研究での検証を通じて、臨床現場での有効性が高まることが期待される。 参照論文:Artificial intelligence-guided detection of under-recognised cardiomyopathies on point-of-care cardiac ultrasonography: a multicentre study 関連記事:1.AIによる心エコー初期評価2.AI心電図 – リスク患者の特定により院内死亡を大幅に低減3.AIが「心臓突然死の予知・予防」に役立つ可能性

緑内障診断の最前線—機械学習モデルが重症度を見極める

今までの光干渉断層計(OCT)画像を用いた緑内障の診断AIでは、緑内障の重症度を分類するものは無く、また各特徴量の重要度を示すモデルは存在しなかった。このほど、豪ニューサウスウェールズ大学の研究チームは、緑内障診断と重症度分類が可能な高精度の機械学習モデルを発表した。本成果はScientific Reportsで公開されている。 同研究では、健常者334例と緑内障268例(重症度別:初期86例、中期72例、後期110例)のOCT画像を用意し、網膜領域(網膜神経線維層(RNFL)、網状層および黄斑)の分布・厚さなどの空間的特徴に加え、RNFLに対し周波数解析を施した特徴量を用いて、重症度分類の教師あり学習を行った。複数の機械学習モデルを比較した結果、サポートベクターマシンの精度が最も高く(AUC値0.97)、特に初期および中期の緑内障診断において医師の精度を上回っていた。また、SHAP分析から「RNFLの対称性」「RNFL下層の厚さ」が緑内障診断に重要な特徴量であることが示唆された。さらに本研究チームは、臨床現場で利用可能なアプリの開発も行っている。 著者らは「医師の診断がばらつきやすい初期の緑内障を検出できることは、本モデルの優れた点である。また、従来の深層学習と異なり、機械学習によって特徴量の説明可能性が上がったことは診断支援において価値がある」と述べている。今後は、年齢や眼圧等の特徴量を考慮しモデルの精度を高めると共に、アプリをOCT検査機器に組み込むことを目指すとしている。 参照論文:OCT-based diagnosis of glaucoma and glaucoma stages using explainable machine learning 関連記事:1. AIは糖尿病性眼疾患の進行を予測できるか?2.「眼の老化」を測定3. 網膜眼底画像によるパーキンソン病スクリーニング

胎児心拍数陣痛図から胎児アシドーシスを予測するAI

胎児心拍数陣痛図(EFM)は、胎児の状態をリアルタイムに評価する検査であり、分娩介入への有効性が示されてきた一方、その波形から分娩時低酸素状態の予防に繋げることは困難であった。このほど、米ペンシルベニア大学・ハーバード大学の共同研究チームは、胎児心拍数陣痛図データから、高い精度で胎児アシドーシスを予測するディープラーニングモデルを発表した。 AJOG(米国産婦人科学会誌)に掲載された同研究では、欠損データが30%未満かつ分娩前60分間のデータが存在し、臍帯動脈血pHとの対応が取れる10,182件のEFMデータを用いた。複数のモデルに教師あり学習を行い、「pH値が7.05/7.10/7.15/7.20未満であるか」を予測させた結果、時系列データ分類に特化したInceptionTimeモデルが最も高い精度を示した。特に、pH値<7.05の予測ではAUROCが0.85、pH値<7.10の予測ではAUROCが0.83であった。また、「Base Excessが-10meq/L未満」を予測項目に追加すると、いずれのpH値への予測でもAUROCが0.85を超える結果となった。外部検証ではAUROCが0.72という結果を得ている。 研究チームは「従来の視覚的な解釈や既存のソフトでは、EFMデータを十分に活かせていなかったが、深層学習によりEFMの解釈性を高めることが可能となった。今後は、本モデルがより有効となる患者特性を探りたい」と述べている。また、EFM分析では、局所の非線形的な特徴も考慮できるモデルが有用であることが示された。本技術が現場で活用されることで、分娩ケアのより一層の向上が望まれる。 参照論文:Intrapartum electronic fetal heart rate monitoring to predict acidemia at birth with the use of deep learning 関連記事:1. ディープラーニングモデルが心房細動を正確に予測2. 心エコー・電子カルテ情報から心室中隔欠損の自然閉鎖を予測3. 分娩中にリアルタイムでリスク予測

医療従事者のAIに対する認識:横断的調査

オーストラリアのクイーンズランド州において、「医療従事者のAIに対する認識と、医療現場におけるAI使用の機会や課題」について、横断的調査が行われた。 本調査は、231名の医療従事者を対象に行われ、医療従事者のAIの認識に関する調査を目的に開発されたShinners Artificial Intelligence Perception toolが用いられた。参加者の大半は40歳未満(67.9%)であり、平均勤務経験年数は10年であった。大半はAIの使用経験がなく(80.1%)、医療にAIを導入する上での課題に、「知識不足」が挙げられた。また、大半が「AI実用化に対する準備ができていない」と感じており、AIにより重要なタスクが奪われることを懸念していた。ほとんどの参加者はAIに関する教育を受けていないが(82.3%)、トレーニングを希望しており(73.6%)、AIが医療を改善すると回答した。薬剤師が、「AIの導入が実務に影響を与える」と考える傾向が最も強く、理学療法士とソーシャルワーカーが考えにくいとする傾向がみられた。AI活用の機会に関する自由記述の回答では、勤務表作成、患者モニタリング、投薬管理、職場におけるトレーニングや患者教育、職場のワークフローの作成・効率化などが挙げられた。 筆者らは「AIにより受けられる恩恵は、デジタルリテラシーの高い職種に限定されるべきではない」としており、職場トレーニングなどにおけるAI教育の重要性を強調した。また、医療においてAIを有効に利用する機会について検討するために、AI業界の専門家との協力の必要性も指摘した。 参照論文: Allied Health Professionals' Perceptions of Artificial Intelligence in the Clinical Setting: Cross-Sectional Survey 関連論文: AIに対する放射線技師の理解度調査 ネパールの医学生における「AIへの意識」 世界の精神科医たちは医療AIを強く疑っている? – SERMOの国際意識調査から AI医療利用の世界ランキング – 日本は調査対象外

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