2022年の「ドブス対ジャクソン女性健康機構事件」の判決(人工妊娠中絶を認めた1973年の判断を覆し、米合衆国憲法は中絶の権利を保障していないとした)を受け、体外受精(IVF)クリニックと患者家族に大きな課題が生まれている。つまり、今後は「余剰胚の廃棄を違法」とみなす州が出てくる可能性があり、生殖補助医療(ART)への影響が懸念されている。
体外受精のプロセスは一般に、排卵誘発、採卵、卵子受精、胚移植の4つの主要なステップから構成される。このプロセスにおいて胚培養士は、どの胚を移植するか、凍結保存するか、廃棄するかを選択する必要がある。つまり、治療に適していると判断された胚は、最初の胚移植が成功しなかった場合に備えて凍結保存されるが、不適当と判断された胚やその他の理由で使用されなかった胚は廃棄されることになる。
米アマースト大学やハーバード大学などの共同研究チームは、生殖補助技術学会(SART)臨床成果報告システムが保有する会員クリニックのデータを活用し、最適な胚数の予測モデルを構築し、余剰胚の発生を抑制しようとする研究成果を公表した。JAMA Network Openに掲載されたチームの研究論文によると、460,577件の胚移植サイクル情報に基づき、患者の年齢や抗ミュラー管ホルモン値、卵巣予備能、採取卵子数、州などからモデルを構築し、検証を行っている。
結果、全ての卵母細胞を精子にさらすことを推奨する可能性は年齢とともに増加しており、32歳未満の患者における採卵では20.0%未満であるのに対し、42歳以上の患者における採卵では99.0%以上が推奨された。また、全卵母細胞よりも少ない数の卵母細胞をさらすよう推奨されたサイクルのうち、1回の出産に推奨された卵母細胞数の中央値は、32歳未満の患者では7、32~34歳の患者では8、35~37歳の患者では9であった。
著者らは「これらの知見は、予測モデルによって未使用胚の作成数を減らせることを示唆しており、余剰胚の廃棄に関する現在の懸念に対処するのに役立つ可能性がある」とし、さらなる研究の継続を明らかにしている。
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