肺塞栓症は、四肢の深部静脈で作られた血栓が剥がれ肺動脈を詰まらせることで発生し、致死的な状況を招くリスクの高い疾患である。息切れや胸部痛といった自覚症状は多様な疾患でみられる非特異的なものであるため、現場での診断は容易ではない。診断を確定する検査のひとつ、肺血管造影CT(CTPA)は限られた医療機関でしか実施できず、検査に至るまでの障壁は相応に高い。
米マウントサイナイ・アイカーン医科大学の研究グループは、心電図から肺塞栓の兆候を検出するAIを発表している。European Heart Journal – Digital Health誌に掲載された研究論文によると、この機械学習アルゴリズムは心電図と電子カルテデータを組み合わせて学習している。肺塞栓症の発症を判断する上で、既存のスクリーニング手法4種(Wells’s Criteria、Revised Geneva Score、Pulmonary Embolism Rule-Out Criteria、4-Level Pulmonary Embolism Clinical Probability Score)よりも高い特異性と精度が示された。
心電図という広く普及し比較的容易に利用できる検査方法を、スクリーニングアルゴリズムに組み込むことに本研究の優位性がある。電子カルテデータ中心のアルゴリズムでは肺塞栓症検出の成功率にムラがあり、一方でより精度の高いアルゴリズムを追究するとCTPAのような高度な検査データに大きく依存してしまう。医療AIの普及にとって、日常的に収集できる身近な検査方法を効率的に組み込むことが戦略的に重要であり、本研究は臨床的ニーズとうまく合致した好例と言える。
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