英国は日本と同じく、国民全員が保健医療サービスを享受するユニバーサルヘルスケア(国民皆保険)を達成している。幅広いリスクに単一の制度で対応する英国国民保険においては、多数が乱立する日本とは異なり、支払者もまた単一であるという大きな特徴を持つ。このことは、英国民保健サービス(NHS)が、非常に大量かつ高度の医療関連情報を集約的に保有することを意味する。
ロンドンを本拠とする世界的会計事務所Ernst & Young(EY)が公表したレポートによると、NHSが保有する患者データはおよそ年100億ポンド(約1兆3300億円相当 – 為替レートは今日現在)の市場価値を持つという。患者個人情報の保護がNHSにとって最大級と言える懸念点で、一部のデータ共有は学術的研究目的などに限定して進められてきた。
NHSの患者データには、5500万人分のプライマリケアデータ、2300万の単回受診記録、がん患者や希少疾患患者など10万名分のDNAデータなどが含まれている。巨大な金塊に腰掛ける英国は、それが世界にも類を見ない輝きを放つものであることにもちろん気付いている。患者データの電子化を急速に進める一方、データ共有ポリシーに対する議論も大きい。AI時代のヘルスケア革命はビッグデータ保有者から起こる可能性が高く、英国の挙動には大きな注目が集まる。