AIによるポルノ誘導が健康被害を招く可能性

英国の教育慈善団体であるReward Foundationの研究者らは、「ポルノを頻繁に利用する個人の精神的・身体的な健康被害の割合は加速しており、AIはポルノ中毒だけでなく、より暴力的な素材へのエスカレーションを促進する上で重要な役割を果たしている」との報告書を公開した。同団体はRoyal College of General Practitionersに認定され、ポルノの過剰使用によるリスクについて医療従事者への教育・啓蒙を行っている。

Current Addiction Reports誌からこのほど公開された報告書によると、Reward FoundationでCEOを務める英ケンブリッジ大学のMary Sharpe氏と、同団体理事長のDarryl Mead氏は、ポルノが公衆衛生上の深刻な問題に発展した原因として、AIが果たした2つの主要な役割を挙げている。商業用ウェブサイトで使用されているAIアルゴリズムは「消費者を操作して、より強い興奮を与える形態のポルノを見るようにエスカレートさせる」が、消費者はこれに弱いとした上で、1. 「エスカレーションを促すアルゴリズムによって、ポルノユーザーは時間の経過とともに嗜好が変化」する。さらに、2. AIアルゴリズムは消費者を「2つの方向」(暴力的なコンテンツおよび若者を搾取するコンテンツ)に誘導することができると主張する。

著者らはまた、「問題のあるポルノ使用(PPU:Problematic Pornography Use)をしている人は、より刺激的でリスクの高い素材への欲求が高まり、その使用を抑制する能力が低下する方向に脳の変化が生じている」点を指摘する。一方、事態の改善策としては、巨大なポルノ産業を相手に集団訴訟を起こすことではなく、年齢認証や教育プログラム、公衆衛生キャンペーン、健康警告等による予防的戦略が有効とする。同時に、政府や政策立案者は市民を保護する観点から、ポルノ企業に自社製品・サービスの害について責任を負わせる余地がある点にも言及している。

関連記事:

  1. スペイン語圏でのメンタルヘルスケアAIチャットボットの有効性検証
  2. パンデミック下における「遠隔医療利用の社会格差」
  3. 著名な敗血症予測ツールの「精度が低いこと」を研究者らが指摘
  4. AIモデルは「ショートカット」に依存している?
TOKYO analytica
TOKYO analyticahttps://tokyoanalytica.com/
TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
RELATED ARTICLES

最新記事

注目の記事