慢性創傷の治癒を予測するAIモデル

慢性創傷と呼ばれる「通常の経過(4~12週間)で治癒しない傷」が、高齢化・肥満・糖尿病などを背景として米国で蔓延している。慢性創傷は患者の生活の質に影響を与え、多大なコストを必要とする。傷が治るまでの治療期間をタイムリーに予測するAIツールによって、慢性創傷ハイリスク患者の管理を改善しようとする研究が行われている。

創傷ケア用のソフトウェアを開発する米Net Health社のリリースでは、学術誌 Advances in Wound Careに発表された「慢性創傷ハイリスク患者を特定し、治癒期間を予測する機械学習モデル」を紹介している。Net Healthの創傷データベースは、過去20年以上470万件の事例を収集した世界最大級のものとなる。これを利用し、治療開始後4・8・12週後で創傷が治癒する可能性を予測するモデルを構築した。結果、モデルの精度としてAUCは0.854(4週)・0.855(8週)・0.853(12週)を達成した。さらにこのモデルは予測への影響を説明するSHAP値という指数により、傷の深さ・位置・面積など、治癒しないリスクに影響する因子を特定できる。

AIを創傷治癒に活用した先行研究はあれど、本研究ほどの包括的なデータセットで広範囲な予測期間を評価したものはほとんどみられなかった。創傷治癒に悪影響を及ぼした要因を特定するアプローチは、近年トレンドとされる精密医療の方法論と一致している。Net Health社のデータサイエンティストで論文著者のMatt Berezo氏は「ツールから得られる洞察によって、臨床医がタイムリーな判断を下し、治療の改善と医療費の削減につながる可能性がある」と述べている。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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