C型肝炎治療の失敗リスクを推定するAI研究

C型肝炎の治療は、直接作用型抗ウイルス薬(DAA: Direct Acting Antivirals)の登場によって画期的な進歩を遂げた。しかし、DAAは治療完了までに数百万円程度(日本では高額療養費支給制度対象)を要する高価な薬剤として知られ、その治療を可能な限り初回で成功させることは、患者の健康面のみならず医療経済的側面からも待望されている。米フロリダ大学のグループは「C型肝炎におけるDAA治療の失敗リスクを推定するAI研究」を行い、最新の成果を学術誌 Hepatologyに発表した。

フロリダ大学が明らかにしたところによると本研究では、米国内のC型肝炎患者登録データセットから収集した約5,000名の臨床データに基づき、C型肝炎治療の失敗を予測する4種の機械学習アルゴリズムを構築した。アルゴリズムの有効性は別の1,631名の患者で検証されており、アンサンブル学習の一種である勾配ブースティングが最も高い予測性能を示していた。また4種のアルゴリズムはいずれも、従来の統計手法である多変量ロジスティック回帰よりも優れた性能を示した。治療失敗の強力な予測因子として、喫煙・飲酒・糖尿病・高血圧・胃食道逆流症治療薬が挙がり、これら因子に対しては治療成功率を高めるために介入の余地があると考察されている。

DAAによるC型肝炎の初回治癒率は95%以上とされる。しかし、世界における慢性C型肝炎患者は7000万人、年間新規感染者数は150-200万人との推算があり、残りわずかの失敗が与える影響は小さくない。研究チームは、「本アルゴリズムを電子カルテに組み込み、治療開始前にハイリスク患者にアラートを発する」といったシステムを想定し、研究開発を継続している。

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