結核の新規発症は世界で年間1千万人以上であり、170万人がこれを主因とした死亡に至るなど、依然として結核は世界10大死因に含まれている。WHOが主導する結核撲滅戦略は2030年までの達成を目標としているが、このためには正しく規則的に結核治療薬を服薬する「アドヒアランス」の重要性が極めて大きい。WHOは、結核患者の服薬を医療者が直接確認する「DOTS: Directly Observed Treatment Short Course」という手法を推奨しており、2017年以降からはビデオベースの直接観察「VDOT」を適切な代替手段として認めている。しかし、ビデオを確認する作業に対して医療者のリソース不足は根強く、AIによる自動化と効率化の可能性が模索されている。
米ジョージア大学の研究チームは、VDOTへのAI適用を検討するために、「結核患者が服薬している動画データを解析するAI研究」を行っている。同研究における最新の成果は、SSRN上の「Preprints with The Lancet」でプレプリント論文として公表された。この研究では、VDOT用に作成された50名の結核患者の服薬ビデオ861本を対象として、複数のディープラーニングモデルをテストした。動画から得られる顔のジェスチャーや顎の下がり具合によって服薬状況を評価した結果、動画分類タスクを遂行するアルゴリズムのひとつ「3D ResNet」においてAUC 0.84、評価1件当たり0.54秒と、効果的に機能することを確認している。
結核やC型肝炎における「服薬監視に特化したAIの有効性検証」は先行する研究成果が乏しく、著者らは、VDOTのモニタリングにおけるAIツールの可能性を本研究によって新たに示すことができた点を強調している。モデルトレーニングのため、大規模なラベル付きデータセットをオープンソース化するなど、次の局面へ研究を発展させていくことをチームでは検討している。
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