マンスリーアーカイブ 1月 2023
都市環境が身体活動に与える影響
環境が運動を促し、身体的・精神的な健康改善につながる可能性がある。中国・大連理工大学の研究チームは、ソーシャルメディアを活用した時空間データから、都市環境と身体活動の関連を機械学習アプローチによって分析している。
Health & Placeから10日公開された研究論文では、ソーシャルメディアデータを含むマルチソースデータから、「近隣の青緑地やその他の健康増進施設が身体活動や市民感情に与える影響」を調査した。結果、青緑地、活動施設、地域の安全性などは、身体活動に好影響を与えるとともに、安全性や景観の美しさは、正の市民感情と有意に関連していた。
チームは、「ブルースペースがもたらす健康増進効果」を指摘するとともに、都市環境と身体活動パターンの調査といった、将来的な類似研究についてもソーシャルメディアデータが活用できる可能性に言及している。
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AIメディカルサービス – 東京大学に講座開設
内視鏡の画像診断支援AI開発を手掛けるAIメディカルサービス(AIM)は11日、東京大学に「次世代内視鏡開発講座」を開設したことを明らかにした。
近年、内視鏡検査の検査数が飛躍的に増加しており、医師の業務負担増加と胃がんの見逃しリスクが大きな課題となっている。また同時に、内視鏡検査は医師の技量に依存した検査方法であるため、技量差の均てん化も喫緊の課題となる。AIMは、これらの課題をディープラーニングを中心としたAI技術による解決を志す。今回開設した講座では、「内視鏡検査におけるAI利活用のための研究開発を行い、臨床現場で評価し、得られた知見を基に学内外に教育を行うことで医療分野におけるAI人材の育成を目指す」としている。
代表教員は辻陽介特任准教授、開設時期は本年1月1日から2025年12月末までの3年間を予定する。
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AIによってポリマーナノ粒子の製造法を革新
ポリマーナノ粒子は、人体の適切な場所に適切なタイミングで正確に薬を送達するための強力なツールとして期待されるが、製造自体が複雑なため、その利用は制限されてきた。実際、分子設計を行い、それを大規模に一貫して再現できるようにするには数十年を要することもあり、ベンチスケールの合成から産業スケールの製造までには明確なボトルネックがあった。
米コーネル大学の研究チームは、全米科学財団から300万ドル(3.96億円)の研究助成を受け、AIによってポリマーナノ粒子の製造方法を革新することを目指す。チームのアプローチでは、ポリマーナノ粒子の製造をリアルタイムで分析・誘導するためにAIを活用する。開始型化学気相成長(iCVD)システムでナノ粒子を合成する際、コンピュータビジョンで「光学的指紋」を読み取る。得られたデータは、ポリマーナノ粒子に関する情報を識別するための畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の学習に使用し、組み立て工程におけるリアルタイム自動意思決定に利用される。
本研究が成功すれば、「コンピュータ主導の新しい製造方法」を生み出すことに加え、最終的にはナノ医薬品の製造にも革命をもたらす可能性があることを研究チームは強調している。
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エルピクセル – EIRL Chest Screeningの新モデルを発売
エルピクセルは10日、胸部X線画像の読影診断を支援する「EIRL Chest Screening」について、新たに3つの異常陰影領域(浸潤影、無気肺、間質性陰影)を検出する機能を追加した新モデルを発売したことを明らかにした。
従来のEIRL Chest Screeningは、胸部X線画像から肺結節候補域を検出するEIRL Chest Noduleと、胸腔内の空気含有面積・肋骨横隔膜角・心胸郭比・縦隔幅・大動脈弓径を自動計測するEIRL Chest Metryの2つのソフトウェアを統合した製品だった。今回の新モデルでは、EIRL Chest Noduleに代え、結節影だけでなく浸潤影や無気肺、間質性陰影を検出する機能を持つソフトウェアである「EIRL Chest XR」を追加する。新モデルの展開により、健康診断や日常診療など、膨大な検査数が実施される胸部X線検査をより包括的に支援することを目指す。
検出精度については、医師単独で読影した場合と比べ、本ソフトウェアを用いて読影した場合、専門医で11.1%、経験5年未満の非専門医で15.5%の感度上昇を認めた。また、読影試験における診断性能を表すJAFROC解析によるFOM(Figure of Merit)値は、本品を併用することで専門医では0.059ポイント上昇しており、診断精度の有意な向上を確認しているとのこと。
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AIによる「Long COVIDサブタイプ」の同定
米カリフォルニア大学バークレー校の研究チームは、EHR情報に基づき、新型コロナウイルス感染症の後遺症、いわゆる「Long COVID」のサブタイプを特定した。
eBioMedicineから今月公開された研究論文によると、COVID-19の発症後にLong COVIDが確認された6,469人のデータを用い、この解析を行っている。これはEHRデータに基づき、後遺症の表現型データをモデル化し、類似性の評価を行ったもの。独自アプローチによってLong COVIDの特徴間の「ファジーマッチング」を可能とした上で、類似性スコアによって患者をクラスタリングしている。結果、後遺症を有する患者には6つのクラスターが存在し、それぞれが異なる表現型異常のプロファイルを有していることを明らかにした。
研究者らは、「この研究成果が患者サブグループへの層別化基盤となり、さらなる研究と精密な臨床管理戦略を推進することができる」と結論付けている。
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Qritive – 新たなデジタル病理プラットフォーム
シンガポールに本社を置き、米国はサンディエゴ、インドはプネに拠点を置くQritiveは、MassMutual Venturesが主導し、SEEDS CapitalとExfinty Venture Partnersがサポートする資金調達ラウンドにおいて、新たに750万ドル(9.9億円)を調達した。
AIを活用したQritiveのソリューションは、病理診断に用いるホールスライド画像スキャンに対して数秒以内に正確な解釈を加えることで、治療までの時間を短縮するとともに、がん治療の精度を向上させるもの。同ソリューションは既にCEマークを取得しており、シンガポール保健科学庁(HSA)による臨床使用の承認も受けている。
Qritiveの技術は、大腸や前立腺、リンパ節、乳房など複数種のがん診断をカバーし、症例管理やレポート作成、スライド閲覧・分析、テレパソロジー、シノプティックレポート、LIS統合のためのツールをまとめている点で、他に類を見ないプラットフォームとされる。同時に、Qritiveはオープンな病理環境の構築を目指しており、特定の顕微鏡やITシステムに依存せず、サードパーティのAIソリューションと容易に統合できることが大きな特徴となる。
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Opteev社「ViraWarn」 – 呼吸器感染ウイルスを呼気から検出
COVID-19のパンデミックを契機として、呼吸器感染症を「呼気」から診断しようとする検査機器が複数提唱された。米Opteev社が開発を進める「ViraWarn」もその1つとなる。
Opteevの公表によると、世界最大級の技術見本市「CES 2023」においてViraWarnを展示する。同製品は、呼気中のウイルス粒子が導電性バイオセンサーに接触した際の導電率変化を検出し、電気的パラメータの変動をAIで解析することにより、陽性/陰性の判定を行う。ユーザーがマウスピースから2回息を吹きかけると、60秒以内にLEDランプが判定結果を通知するもので、使用方法も簡便であることが特徴。装置は再利用可能で、陽性結果が出た場合、または毎日の使用で2〜3週間経過した際、バイオセンサーカートリッジの交換を必要とする。
ViraWarnは市販化に向け、2022年夏に米国食品医薬品局(FDA)へ承認申請しており、現在審査中とのこと。Opteevの共同創業者であるConrad Bessemer氏は「CESでViraWarnを一般公開するのを楽しみにしている。COVID、RSウイルス、インフルエンザが蔓延を繰り返す状況に対し、ViraWarnを市場に投入することを我々は熱望している」と語った。
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臨床検査技師はデータサイエンスに向かう
検体検査を主とした臨床検査を担当する「臨床検査室」は、健康データの収集・保存・解析を担う実務家で構成され、近年はその専門性にデータサイエンスが取り込まれようとしている。世界医学検査学会(IFBLS)は、臨床検査技師をMedical Technologistではなく「Biomedical Laboratory Scientist」と呼称することを推奨し、生体情報に関する科学者としての側面を強調してきた背景もある。
American Association for Clinical Chemistry(AACC)は臨床検査医学を通じた健康向上を目指す国際団体で、AACCが2016年に創刊したThe Journal of Applied Laboratory Medicineは、臨床検査医学の応用研究を紹介する査読付き国際ジャーナルとして知られる。今月発刊の特集号では、臨床検査室がどのようにデータサイエンスを取り込んでいるかを示す種々の研究成果が公開されている。
編集者で検査医学におけるデータサイエンスの専門家でもあるNiklas Krumm氏は、「臨床検査室は健康データ分析における主導的な役割を担ってきた」とした上で、本特集が「臨床検査室による直近の顕著な進歩」にスポットライトを当てていることを強調し、広く関係者の目に触れ、理解の進むことを期待している。
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米国におけるAIツール導入の現状
米国において、規制当局による承認済みAI医療機器は急激に増加し、これに伴って臨床現場におけるツールの採用も広がりつつある。
米国大規模医療システムがどのような姿勢を持つかについては、先行研究が参考となる。シカゴ大学などの研究チームがJournal of General Internal Medicineに昨年公開した研究論文によると、大規模医療システムの60%超がAIツールを担当する専門チーム、または専門家個人を有してAIツールの導入・運用・評価にあたっているとする。また今月4日、npj Digital Medicineから公開されたコメンタリー論文によると、調査対象ヘルスケアプロバイダーの半数以上が何らかのAIソリューションを運用し、さらに30%が「今後2年以内に導入予定」とした。
AIツールによるリスク予測領域で特に重要視されているものには入院・再入院リスク予測と敗血症リスク予測が挙げられるが、あるベンダーが提供する「EHRに基づく敗血症予測システム」がアルゴリズムに重大な問題を抱えていること、またこれが厳密な評価を受けることなく多くの医療システムで展開されていることを指摘する論文も公表され、話題を呼んだ。医療AIが実環境で有効に活用されるための道は平坦ではないが、種々の議論が徐々にその土壌を踏み固めていることは間違いない。
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自殺リスク推定分析の実臨床導入
自殺リスク推定分析は、臨床情報に社会人口統計学的特徴を組み合わせ、特定集団のリスクを定量化するものだ。AI技術の向上に伴って、近年高精度な推定モデルが多数提唱されているが、一方で「この種のモデルを実臨床において日常的に使用すること」に関するエビデンスは著しく不足している。
ワシントン大学、および米国3大健康保険システムの1つであるカイザーパーマネンテなどの研究チームは、2種のモデルを臨床環境に組み込み、どのような影響がみられるかを定量・定性の両面から評価している。JAMA Network Openに掲載されたチームのレター論文によると、モデルによるリスクフラグは、既存ワークフローに加えた「追加的な自殺リスク評価」を臨床医に対して効果的に促せておらず、大きな変化を与えていなかった。また、これらのリスク推定モデルに対する臨床医の懸念として、フォローアップの欠如やEHR関連の非効率性、フラグの信頼性と正確性など導入に関するものが挙がったほか、自殺リスクを知ることで医師としての潜在的な責任が生じることにも懸念が生じていた。患者側では、モデル評価に基づく「強制的な治療介入」や自殺リスクによる「医療アクセスの悪化」などを懸念していた。
著者らは、これらのモデルを有効に実臨床導入することの困難さに触れるとともに、「自殺リスク推定分析は、臨床的判断やスクリーニング、評価方法に取って代わるものではなく、むしろ補強するために設計されていることを強調することで、信頼性と正確性に関する懸念を軽減することができる」としている。
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DeepMosaic – DNAモザイク変異の検出AI
細胞の分裂過程で一部に突然変異が生じ、正常細胞と変異細胞が混在するものを「モザイク変異」と呼ぶ。現在、モザイク変異の検出には専門家による視認作業が主流であり、時間を要するとともに人為的エラーを伴う工程となっている。
米カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームは、深層学習モデルを用いてモザイク変異を検出する「DeepMosaic」に関する研究成果を、Nature Biotechnologyから2日発表した。DeepMosaicは、一塩基モザイク変異体の画像ベースでの可視化モジュールと、コントロールに依存しない変異体検出のための畳み込みニューラルネットワークベースの分類モジュールを組み合わせたもの。18万を超えるバリアントデータから学習したDeepMosaicは、非がん疾患の全ゲノムシーケンスにおいて感度0.78、特異度0.83、陽性適中率0.96を達成しており、研究チームでは「既存手法の代替・補完として臨床実装可能な高精度分類手法」と結論付けた。
著者のJoseph Gleeson氏は「薬物治療が効かないてんかん患者では、脳内におけるモザイク変異が原因となっていることがある。DeepMosaicを原因の特定できないてんかん患者のゲノムデータに適用したところ、変異を明らかにすることができた。本手法によって、ある種のてんかんではDNA変異検出の感度が向上し、新たな治療法を導くような発見がもたらされる可能性がある」と語っている。
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リンチ症候群患者における大腸がんAIサーベイランス
リンチ症候群は、大腸がん症例の数%を占める常染色体優性遺伝疾患であり、特定の染色体変異を有する患者においては、大腸がんの生涯発症リスクが70%を超えるため、定期的な大腸がんサーベイランスを受けることが欠かせない。ドイツ・ボン大学病院が有する国立遺伝性腫瘍疾患センター(NZET)の研究チームは、AIシステムによって「リンチ症候群患者における大腸内視鏡検査の効果を改善できること」を明らかにした。
United European Gastroenterology Journalからこのほど公開された研究論文によると、2021年12月から2022年12月の間に、46人のリンチ症候群患者を標準的な大腸内視鏡で調査し、一方で50人のリンチ症候群患者に対してAI支援下における大腸内視鏡検査を実施することで、その検出精度を比較した。結果、AI支援検査の方が標準検査よりも約10%高い検出率を示し、有意に多くの腺腫を検出した。
著者らは「本研究は、AI支援リアルタイム大腸内視鏡検査が、リンチ症候群患者の内視鏡サーベイランスを最適化し、特に平坦腺腫の検出を改善する有望なアプローチであることを示した」としている。リンチ症候群はドイツ単独でも30万人が罹患しており、特に若年における大腸がん発症の大きなリスクとして、そのサーベイランスの精度向上が強く求められてきた背景がある。
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脳卒中においては、適切で迅速な治療の開始が回復の鍵となる。年間85,000人が脳卒中を発症するイングランドにおいて、英国民保健サービス(NHS)では、脳CT画像から脳卒中の診断・治療をサポートするBrainomix社のAIシステム「e-Stroke」の運用を行っている。
Brainomixが発表したe-Strokeシステムに関する初期の分析では、プライマリケア病院到着から専門病院への転院搬送開始までの時間(DIDO: door-in-door-out)を140分から79分へと、平均で1時間以上の短縮を達成した。また、脳卒中後の機能的自立(後遺症なし、または軽度障害)患者が16%から48%へと、3倍の増加に寄与したという。
英国政府が明らかにしたところによると、政府の資金援助によるe-Strokeの運用で、イングランドの5つの脳卒中ネットワークにおいて、延べ111,000人以上の脳卒中疑い患者がシステムの恩恵を受けたという。NHSイングランドのTimothy Ferris氏は「脳卒中が疑われた患者にとって、初期評価で節約できた時間は、健康な状態で退院できる可能性を劇的に向上させる。NHSではAIが持つ可能性を活用し、有望な技術を検証・評価・支援している」と語った。
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