自殺リスク推定分析は、臨床情報に社会人口統計学的特徴を組み合わせ、特定集団のリスクを定量化するものだ。AI技術の向上に伴って、近年高精度な推定モデルが多数提唱されているが、一方で「この種のモデルを実臨床において日常的に使用すること」に関するエビデンスは著しく不足している。
ワシントン大学、および米国3大健康保険システムの1つであるカイザーパーマネンテなどの研究チームは、2種のモデルを臨床環境に組み込み、どのような影響がみられるかを定量・定性の両面から評価している。JAMA Network Openに掲載されたチームのレター論文によると、モデルによるリスクフラグは、既存ワークフローに加えた「追加的な自殺リスク評価」を臨床医に対して効果的に促せておらず、大きな変化を与えていなかった。また、これらのリスク推定モデルに対する臨床医の懸念として、フォローアップの欠如やEHR関連の非効率性、フラグの信頼性と正確性など導入に関するものが挙がったほか、自殺リスクを知ることで医師としての潜在的な責任が生じることにも懸念が生じていた。患者側では、モデル評価に基づく「強制的な治療介入」や自殺リスクによる「医療アクセスの悪化」などを懸念していた。
著者らは、これらのモデルを有効に実臨床導入することの困難さに触れるとともに、「自殺リスク推定分析は、臨床的判断やスクリーニング、評価方法に取って代わるものではなく、むしろ補強するために設計されていることを強調することで、信頼性と正確性に関する懸念を軽減することができる」としている。
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