機械学習によるHIV検査のパーソナライズ

米疾病管理予防センター(CDC)は2006年以降、13歳から64歳までの全ての米国人を対象に、定期的なHIVスクリーニングを行うことを推奨している。しかし、対象年齢にある者のうち、検査を実際に受けたことのある者は半数以下(43%)にとどまる。HIVが最も強い感染力を持つ初期段階での検査強化は、新規感染者を減少させる重要なステップとして認識され、HIVスクリーニングの強化が求められている。

米国で常用されている最も分析感度の高いHIVスクリーニング検査は、第4世代(HIV4G)検査と第5世代(HIV5G)検査と呼ばれている。HIV4Gでは、HIV p24抗原の検出が、初めてHIV-1抗体およびHIV-2抗体の検出に含まれた。これにより、感染からHIV陽性判定までの期間が約4週間から約2週間に短縮され、最も感染力の強い時期のHIVを検出するのに重要な役割を果たした。しかし、HIV4Gでは、陽性/陰性という単一の結果しか得られないため、HIV-1抗体とHIV-2抗体やHIV-1 p24を区別するためのフォローアップ検査が必要となる。CDCは、HIV4Gが陽性であった場合、HIV-1抗体またはHIV-2抗体が存在するかどうかを判定するため、鑑別検査を行うことを推奨している。これに対して新世代のHIV5Gでは、各成分(HIV-1抗体、HIV-2抗体、HIV-1 p24抗原)に対して結果を提供することができ、必要なフォローアップが少なくなる可能性がある。ただし、いずれの検査方法であっても一定の偽陽性を生むことが問題となっており、この二次的影響を緩和するためには複数の追加検査と専門家の判断が欠かせない現状がある。

ピッツバーグ大学医療センター(UPMC)の研究チームは、HIVスクリーニングの結果について「真陽性または偽陽性の可能性」を評価する機械学習モデルを構築し、スクリーニングフローの改善を目指している。臨床検査医学をリードするAACCの公表によると、このモデルは検証時、142件の偽陽性のうち119件を正しく分類し、83.8%の偽陽性予測精度を示した。モデルの改良によってこの精度は94%まで上昇したが、研究者らは「83.8%の精度を持つよりシンプルなモデルの方がラボのワークフローに導入しやすく、検査のパーソナライズに貢献する」としている。構築されたモデルを既存のスクリーニングに取り込むことにより、さらなる検査の高精度化と追加対応の負荷軽減を実現できることが見込まれ、市民から信頼を得て「積極的に選ばれるスクリーニング検査」となる可能性がある。

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